第1話 師弟
「師匠! パンとミルクをお持ちしました!」
狼の耳と、ふさふさの毛並みの尻尾が少女の動作に合わせて揺れ動く。
俺は駆け寄ってきた獣人の少女からパンとミルクを受け取る。
「…………うん」
銀糸のような煌めく銀髪。
ぱっちりとした宝石のような碧眼。
童顔のわりに豊かに膨らんだ胸部に、すらりと長い手足は思わず見惚れてしまうほど魅力的だ。
控えめに言ってもかなりの美少女だろう。
そんな獣人美少女が俺のことを慕ってくれている。
俺も男だ。
なんだかんだで嬉しくはある。
うん、そこまではいいと思う。
「なあ……師匠って呼ぶのやめないか?」
「な、何故ですっ!?」
「目立つから」
そう、朝っぱらから師匠師匠と、呼ばれているせいでやたら目立つ。
もちろんこの少女―――レオーネが優れた容姿をしているからというのもあるんだろう。
そうなると当然次に視線は俺に来る。
レオーネの通りやすい声で師匠と呼ばれると注目を浴びてしまう。
『おい、なんだあの可愛い子……』
『すげえ可愛いな』
『あの男なんなんだよ……ふざけんなよ……代われよ……』
男からの刺すような嫉妬の視線。
最初は気にしないようにしていたけど、正直疲れる……行く先々でそんな風に見られたら精神が擦り切れるようだ。
「で、このパンとミルクは何だ?」
俺はレオーネから受け取ったものに視線を移す。
「は、はいっ!人気店のライ麦パンとミルクです! やっぱり師弟関係なんですからその辺りはしっかりしないとと思いましてっ!」
「どこの定番かは知らんが、いらんぞ」
がーん!とショックを受けた様にレオーネが耳をへにょっと垂れさせる。
元気の良かった尻尾もふにゃってなった。
「……いや、冗談だ、次からも頼む」
罪悪感には勝てなかった。
俺がそう言うと獣人の少女は花が咲いたような笑顔を見せた。
そんなにパンとミルクを届けたかったのだろうか……
年下の少女にパンと飲物を届けさせる冒険者……なんだこの関係は。
さて、この状況を説明するには、10日ほど前のことを話さなくてはいけない。
あれは俺がクエストの討伐対象を討伐し終えた時のことだった――――




