第10話:初依頼
初依頼がゴブリン討伐か薬草採取など誰が決めた!
4の鐘の音が街に響き渡る中で、俺は目を覚ました。いつもの習慣のせいで、起きたのはまだ日が昇る少し前であるこの時間だった。
横を見ればそこには、いつも通り俺の腕を抱えて眠るソフィアの姿がある。逆にいつもと違うのは、今俺たちが寝ているのは街の宿屋のベッドであり、森の家の手作りベッドではないということであった。
俺の腕を抱えるソフィアから無理矢理腕を引き抜くのも気が咎めるので、そのまましばらく1日の予定を考えていると、彼女の目が開いた。
「おはよう、ソフィア」
「……おはよう、お兄ちゃん」
俺の言葉に対し、眠そうな顔で目を擦りながら返事を返す。
彼女は普段俺が起きると10分ほどしてから起きる。不思議なもので俺が寝ていると彼女はいつまでも起きないのだが、俺が起きてから30分以上寝ていたことは今までに一度もない。
顔を洗い、歯を磨く。それらが終わってもまだ朝食が食べられる5の鐘の時間までは30分以上はあった。習慣通りに起きたが、今までは模擬戦などをして訓練していた時間だ。ここは街中なのでそんなことはできない。
せっかくの時間を無駄にするのもどうかと思い、ソフィアと一緒に魔術訓練をすることにする。
「ソフィア、朝御飯まで魔術の訓練しようか」
「うん」
最初は2人での魔力循環から始め、その次は土属性の魔術で自分を模した小さな人形をそれぞれ作り、それに向かって様々な属性の小規模な魔術を撃ち合う。
俺たちの周囲が魔術の光で色鮮やかに染まった。火の矢が飛べば、それを迎撃せんと氷の矢が向かい、風の刃が放たれれば、土の盾がそれを防ぐ。そこは小さな戦場と化していた。
小規模な魔術の撃ち合いにしたのは、ここが宿だというのが理由の大部分だが、魔術制御の練習になるからでもあった。
魔術は威力が高すぎても低すぎても制御が難しくなる。並の魔術師が俺たちと同じことをすれば、魔力消費が激しくなり、あっという間に魔力が枯渇するだろう。繊細な魔術の行使は技術のない者には通常以上の魔力を必要とするのである。
5の鐘が鳴ると俺たちは訓練を止めた。2人揃って朝食を食べに1階へと下りる。まだ時間が早めだったからか、下には厨房で朝食の準備をする宿屋夫婦がいるのみだった。
「おはようございます。朝食を頂いてもいいですか?」
「おう、おはようさん。準備はもうほとんど出来てるから大丈夫だ。すぐにできる、ちょっと待っといてくれ」
本当に準備はできていたらしく、すぐにいい匂いがこちらまで漂い始めた。
朝食を楽しみにしながらカウンター席に座って待っていると、宿屋の裏口からエラが入ってきた。手には桶を持っている。ちょうど井戸から水を汲んで来たところのようだ。
「あ、ノア君、ソフィアちゃん、おはよう。今日は朝早いんだね」
「ははは……いつもの癖で目が覚めちゃいました」
「そっかー、ところで今日はどうするの?」
「冒険者としての初依頼です。昨日なったばっかりなので」
「じゃあ今日が初仕事か。怪我しないように気をつけてね」
エラは俺とソフィアを交互に心配そうに見つめた。
「この宿のお客さんって冒険者が多いの。私はね、宿に帰ってこなかった人も見てきたんだ」
冒険者は危険な仕事でもある。突発的な事故、依頼の不備、分不相応な依頼を受けての自滅など理由は様々だが冒険者は死のリスクも高いのだ。
彼女はそうして死んでいった人をたくさん見てきたのだという。
「ちゃんと無事に帰ってくるんだよ」
続けられた彼女の言葉に、俺たちはしっかりと頷いた。
俺とソフィアは朝食を食べ終えると、すぐに宿を出てギルドに向かった。
ギルドにはまだ他の冒険者の姿はほとんど見えず、職員の姿があるのみだった。
俺はソフィアと一緒に依頼の貼られたボードを見に行く。
ボードはそれぞれランク毎に分けられており、依頼書には依頼内容と報酬、依頼内容に関係した絵が書かれている。それらを見るに、どうやらランクが高いほど特殊な依頼が多い傾向にあるようだ。
例えば、Fランクでは『月光草の採取、値段は品質と量により変動』や『ゴブリンの討伐、1匹につき中銅貨2枚』などだが、Cランクになると『商隊の護衛、1週間小銀貨7枚』や『月の雫の採取、小瓶一本分につき小銀貨1枚』、Aランクには『迷宮の完全攻略、大金貨50枚』なんていうものもある。
俺は依頼書を剥がして、アルマのいる受付に行く。
「『山賊討伐』!?あなたよくこんなの受けるわね。普通何パーティかが合同で受けるのよ、これ」
俺が取ったのはBランクの依頼の山賊討伐だった。このギルドのランク制はあくまで冒険者たちの実力の目安となるだけであり、依頼の受注に制限はない。
アルマには驚かれたが、俺がこれを受けようと思ったのにはちゃんと理由がある。
「ねえ、考え直さない?あなたたちが強いのは昨日の素材を見て分かってるけど、人間相手、それも中規模の盗賊団相手となると、また別の話になるのよ?」
「だからこそ、です。俺たちは魔物との戦闘経験はあっても人間とはない。だから、早いうちに対人戦を経験しておきたいんです」
「でも、何も盗賊じゃなくても……」
アルマは納得いかないようだが、これこそが俺が盗賊団討伐をしたい理由であった。俺はともかくソフィアに対人間の実戦経験はない。彼女は人間同士の殺し合いを見たことすらないのだ。
だが、人殺しに耐性をつけるためとは言っても、理由もなく人を殺すわけにもいかない。
そこで盗賊の出番である。盗賊は人を襲って生計を立てる犯罪者であり、殺しても本人たち以外に咎める人は誰もいない。むしろ、治安が良くなり、人々から感謝される。
また、まだ7歳の少女に人殺しをさせると言うと、俺が鬼畜扱いされそうだが、これは必要なことだと思っている。
確かに人殺しなんて経験しないで生きていければ幸せかもしれない。しかし、戦争だったり、護衛中の盗賊襲撃、金目当ての強盗などと理由は様々だが、この世界では人を相手に戦うことがある可能性は非常に高い。
世の中には善人しかいないなどということはありえない。まして、善人ですらこちらの敵になりうるのだ。殺すべき相手を殺す判断ができることは、自分の命を守るためにも重要なことである。
それに、中規模の盗賊団程度なら万が一何かあっても俺がカバーできる。経験を積むのにこれほどいい機会もない。
「受けます。絶対に」
「はぁ、しょうがないわね。お願いだから死なないでよ?私後になって後悔したくないからね」
俺が強引に受けることを決めると、アルマは渋々とだが依頼の受注を認め、盗賊団についての情報を教えてくれた。
◇
件の盗賊団は北の王都に繋がる街道に出没するらしい。王都へと向かう商隊を中心に襲っており、すでに何件もの被害が出ているそうだ。
現在俺たちはその盗賊団の本拠地を探すため、魔術を使いながら移動し、候補を1つずつ潰していた。
場合によっては即戦闘も有り得るので、2人とも完全武装だ。俺は長剣2本でソフィアは長剣1本、どちらもミスリル製だ。そして2人とも魔物素材で作られたお揃いのコートを着ている。これにはもともと強靭な糸を使ってある上に、魔術的な処理を施して作ってあるので並の鎧よりも防御力の高いものとなっていた。
また、どちらもコートの内側には短剣を隠している。
「盗賊団がいるなら山か森か洞窟だと思うんだけどなあ」
「そこ以外はいないの?」
「盗賊ってのは人からの略奪で稼ぐわけだから、ある程度街道に近く、かつ人目に付きにくい場所にいるんだよ。そうするとある程度限られるわけで、必然的にさっき言ったみたいなところになるんだ」
「へー。でも盗賊か、なんでそんなのになろうとするんだろうね」
「それは食い詰めたやつだったり、普段は傭兵してるやつとかが手っ取り早く稼ごうとするからだな。……お、人が13人。当たりかな」
ソフィアと話しながら探索を続けると人の反応を捉えた。俺の【風王結界】には13人の武装した人間が馬車を引いて山に向かって行くのが見える。
商人とその護衛ならば真っ直ぐに王都に向かうはずなので、山には向かわない。十中八九盗賊だろう。
「どうするの?倒す?」
「いや、ここからは奴等を尾行してアジトの場所を突き止めよう。【風王結界】があるし、200メートルの距離から尾けるから見つからないとは思うけど気配も消すように」
「了解。私も魔術使ったままの方がいい?」
「ソフィアはもう魔術切っていいぞ。アジトを見つけたら戦闘になるから、それまで魔力節約しとけ」
しばらく尾行を続けると盗賊たちは山の麓の洞窟へと入っていった。そこは森の木々に隠され、ちょうど人の目が届きにくい場所になっていた。
「1、2、3、4……52か、少し多いな。ソフィア、俺があいつらを外に引っ張り出すからここで戦闘になる。準備してくれ」
魔術で中の様子を探った結果、盗賊は52人。捕らえられている人間はなしということが分かった。洞窟の中はあまり広いわけではなく、戦うのには向かなさそうなので、洞窟の外を戦いの場とすることに決める。
「盗賊って全部殺すの?それとも何人か生かす?」
「全部殺していい。下手に手加減してもソフィアが危険になるだけだ」
ギルドの依頼は山賊の討伐となっていた。それはつまりわざわざ捕らえてもどうせ死刑になるのだから余計な手間をかけさせるなということなのだろう。
「じゃあ行ってくる」
俺はそう言い残して洞窟へと入っていった。
洞窟の入り口近くには見張りの男が2人いた。
俺は光の魔術で簡易的な光学迷彩を自分に施し、そっと忍び寄り、両の手に構えた長剣を一閃。
2人の見張りの首を斬りとばして無力化した。
洞窟の奥には明かりが見え、騒ぐ声が聞こえる。大方、略奪した物の分配や宴会でもしているのだろう。
俺は奴等の姿が見える位置まで近づくと、奴等の中心に火球をぶち込んだ。
「ぐわぁっ!腕がぁ!」
「いてえ、痛えよぅ」
「ちきしょう見張りはどうした!おい、何人やられた!?」
盗賊たちは叫喚し、即座に混乱の渦へと飲み込まれた。
俺は結果を見届けると、わざと大きな足音を立てながら外へと疾走する。
「逃げるぞ、追え!!ここが見つかった以上生きて帰すわけにはいかん!」
俺の足音に反応し、盗賊たちは一斉に俺の後を追いかけようと走りだした。
身体強化も使いながら走ったおかげでまだ奴等とはだいぶ距離がある。俺は素早くソフィアと合流し、戦闘に備えた。
「ああん?ガキが2人?」
出てきた盗賊たちは思っていたよりも装備がちゃんとしていた。全員が革鎧を着ており、手にはそれぞれ剣や槍、斧、弓などの武器も持っている。
その中でも特に質の良いものを装備している男が俺たちの姿を見て怪訝そうな顔をする。先ほどの襲撃時に指示を出していたやつだ。おそらくこいつがこの盗賊団のリーダーなのだろう。
「ガキが一丁前に武器なんか構えやがって。さっきのはお前らの仕業か」
「……」
あまり情報を与えたくないので無言を貫く。盗賊だと分かった時点で俺にとって、こいつらは討伐対象以外の何者でもないので会話は必要ない。
「おいおいだんまりかよ」
「親分、あいつらの剣見てくだせえ。あれってミスリルじゃねぇですかい」
盗賊の1人が俺たちの装備に目をつけたらしい。俺たちの装備は全て俺が作った一級品のものだ。むしろ気づかない方がおかしいか。
「本当じゃねぇか。はっ、まあお前らに敵対の意志があることは確かだ。悪いがここで死んでもらうぜ……お前ら、やれ!!」
リーダーの命令で盗賊たちは俺たちへと一斉に攻撃を仕掛ける。
「これは傭兵パターンだったか」
俺の口から小さな呟きが漏れる。
盗賊には大きく分けて2つのパターンがある。
1つは食うに困った農民や町人などの戦いの素人が野盗や追い剝ぎとなり、それが集まり盗賊団となるパターン。
もう1つは傭兵が仕事がない時、すなわち戦争がない時に盗賊として活動するパターン。
目の前の盗賊たちは前衛と後衛などの役割がきちんと分かれており、連携もしている。間違いなく荒事に慣れている後者だろう。
今も敵は剣や槍で俺を牽制し、その間に弓矢を雨霰と射かけてくる。
俺は自分に当たりそうな矢を左右の剣で斬りはらい、敵の前衛には魔術を放ちと、盗賊たちを次々と倒していった。
「女の方を先に狙え!」
そうしてしばらく戦っていると、俺よりもソフィアのほうが与し易いと考えたのか、ソフィアへと標的を変えた。
ソフィアも3人ほどまでは余裕で捌いていたが、一度に相手にする人数が10人、20人と多くなると、捌ききれなくなる。
「きゃっ!」
ソフィアが剣撃を交えていた相手に押し負け、そこに大量の矢が飛来する。
体勢を崩したソフィアはそれに対応することが出来ず、矢は彼女へと迫りーー
全てが撃ち落とされた。俺の放った氷の矢によって。
俺は最初から【風王結界】を展開し続けており、ソフィアの状況も常に把握している。命の危険がある戦いであり、ソフィアにとっては初の対人戦だ。俺は彼女に危険が迫ればいつでも介入できるようにしていた。
「ソフィア、ちゃんと障壁と魔術も使え!殺されるぞ!」
俺は彼女を叱責する。
ソフィアは先ほどのように剣で対応できなくなっても本来なら魔力障壁を張ればそれで済んだ。彼女の魔力障壁は普通の矢くらいならば余裕で弾くからだ。
だが、彼女は一対多という状況に混乱して防御策をとることが出来なかった。
また、魔術を積極的に使用していればあそこまでの大人数に一斉に攻められることもなかった。
初陣の緊張のせいか普段の動きが出来ていない。
「はああっ!」
俺は対峙していた相手の槍を左の剣で弾き飛ばし、そのまま右の剣で袈裟懸けに斬り下ろす。
そして敵の集団に突貫。2本の剣を構えて竜巻のように回転し、複数の敵を一気に斬り倒した。
「【土壁】!」
俺に対応していた人間の数が減ったところでソフィアと敵を分断するように土の壁を作った。
彼女の様子を確認しておきたい。俺はすぐに彼女に駆け寄った。
「大丈夫かソフィア?」
「うん、大丈夫だよ」
体も改めて確認したが、傷ができた様子もなくホッとした。
「どうしてあんまり魔術を使わないんだ?」
俺は先ほどからずっと気になっていたことを尋ねた。ソフィアは普段は多数を相手にする時は、魔術を中心とした戦い方をする。なのに先ほどの彼女は剣で攻撃を防ぐばかりで魔術をほとんど使っていなかった。
「なんか、殺そうって思ってても殺せないよ……。お兄ちゃんはどうして躊躇わずに殺せるの?」
想像と実際にするのは大きな違いがあったらしい。早めに準備を整えようとして焦りすぎたか。
「それが理由か……。それはね命を守るためだよ。自分の、ソフィアの、そして彼らに後々襲われるであろう人たちのね。あいつらを生かしておけば多くの人が苦しむ。それに、もうあいつらに俺らを逃すつもりなんてない。殺さなきゃ、俺とソフィアが殺されるんだ」
無用な情は自らだけでなく他人をも危険に晒す。生かすか殺すか、その判断は正しく行わなければならない。失った命はもう戻らないのだから。
「もちろん全ての人を殺していいわけじゃない。でも殺すべきだと判断したなら余計な情はいらない。迷いがあれば死ぬのは自分と仲間だ」
「守るために……か。うん、もう大丈夫。私やれるよ」
「そうか、頑張れよ」
最後に彼女の頭を撫でて激励の言葉を掛けると、俺は魔術を解いて土の壁を消した。
俺は敵の弓士を片付けるべく周囲に無数の氷の矢を浮かべ、一斉に掃射した。魔術の多重発動。氷の矢は途切れることなく敵の後衛へと飛んで行く。敵は1人、2人と次々に倒れていった。
ソフィアの方を見ると、彼女は突風を起こして敵を吹き飛ばし、距離を開けると向かいくる矢を斬り払いながら、敵の弓士へと風の刃を飛ばして反撃していた。
「もう大丈夫かな」
倒した盗賊の数も合計で40を超え、残る盗賊はリーダーとその取り巻きだけになっていた。
「なんなんだこいつらは……くそっ、やってられっか!」
盗賊たちの表情は、まるで理解できないものでも見たかのように恐怖に歪んでいた。
自分たちが敵わないことを悟ったか、リーダーは1人逃げようとし、取り巻きたちもそれに倣う。
「悪いな、【風牢】」
「ぐっ……が……」
もちろん逃すわけがない。俺の放った魔術は風の檻を作り出して盗賊たちを閉じ込め、そこから放たれた無数の風の刃が彼らを切り刻んだ。
彼らを最後に総勢52名の盗賊団は壊滅した。
「さて、後始末しますかね」
盗賊討伐の後は色々とやることがある。
まずは死体の処理。これは【異空間倉】に突っ込めば問題ない。後でギルドに手配書との照合と彼らが身に付けていた装備の売却を頼むことにする。
次に彼らが略奪して溜め込んだ物の捜索だ。
俺はソフィアと共に洞窟の中へと入っていった。明かりは光属性の魔術で光の玉を浮かべることで確保する。
洞窟の中には一通りの家具が置いてあり、生活感があった。俺たちの襲撃の前まで飲んでいたのだと思われる酒の瓶などが辺りに散乱したままだった。
彼らは武器などは生活していた場所に置いていたが、略奪した金目の物などは洞窟の最奥に溜め込んでいた。それには宝飾品だけではなく、立派な装丁の本なども含まれていた。数学書や歴史書、薬草学の本などもあったので、嬉しい収穫であった。
「盗賊討伐の報酬とリーダーに掛けられていた懸賞金、それに武具の売却額を合わせて大金貨2枚と小金貨3枚ね。あとEランクへの昇格よ、おめでとう」
俺たちはギルドへと戻り、アルマに依頼の達成報告をしていた。
「初依頼で盗賊討伐ってあなたたちの年でやることじゃないわよ、本当。でも、ありがとう。実はねあの盗賊討伐なかなか受ける人がいなかったのよ。この街には1人だけAランクの人がいるんだけど今はその人も迷宮に通っててね」
盗賊討伐は皆あまりやりたがらないらしい。まず規模が大きくなると1パーティでは解決できず、複数のパーティで協力しなければならなくなり、報酬の分配などで問題が起こりやすいため、敬遠されがちらしい。
たまにランクの高い冒険者が受けるらしいが、最近はそういった者たちが迷宮に行くせいで依頼が滞っていたそうだ。
「だから本当に助かるわ。それにしても2人で盗賊団を壊滅させちゃうんだもの、すぐにランクも上がりそうね」
アルマはそう言って冗談めかして笑った。
「時間はたっぷりありますし、気長にやっていきます」
これは俺の本心からの言葉であった。今でも相当な金は持っているのだ。それに俺たちはまだまだ若い。いや、若いというよりも幼いと言った方が正確な年齢だ。焦ることなどないのだから、ランクはゆっくり上げていけばいい。俺はそう思っていた。
その夜、俺とソフィアは月明かりに照らされたベッドに腰掛けて話をしていた。
「私、怖かった。盗賊がいっぱい襲ってきて、矢が飛んできても何もできなくて。死んじゃう、もうお兄ちゃんと会えなくなるって思うとすごく怖かった」
そう言ってソフィアは涙を浮かべる。よく見ると彼女の躰は小さく震えていた。
「怖いって思うのは別に間違いじゃない。恐怖は乗り越えても、忘れちゃいけないものだよ」
「それに人間を殺すっていうのも怖かった。魔物は殺すことに何も思わなかったのに」
「人を殺すのに何も思わなかったり、楽しいと感じる人はどこかが壊れてると俺は思う。ソフィアには人を殺すことに重みを感じていてほしいかな」
俺は前世で人を殺すことに慣れ過ぎた。何も感じないとまでは言わないが、殺すべきだと思えばほとんど迷いなく殺せてしまう。
だが、ソフィアは優しい子だ。彼女には人を殺せても、その命の重さは忘れないでいてほしい。俺の我儘かもしれないが、そう思うのだ。
そうしてしばらく話していると、ソフィアは強い意志の光をその紅の瞳に宿らせ、真っ直ぐに俺の目を見つめて言った。
「私もっと頑張るよ。今は守られてばかりだけど、お兄ちゃんを守れるくらい強くなる」
窓から入り込んだ風が彼女の長髪を揺らす。
俺は、幼いながらも決然たる表情で宣言する彼女の姿、その美しさに息を呑んだ。




