そして故郷をなつかしむ
そして故郷をなつかしむ
助けてくれ。
一言、付箋に書き込まれていた。学校の机の裏。貼り付けられて、ずいぶん経つらしい。
見つけられなかったのか、誰もが無視したのか。
誰のものかも分からなかったので、素知らぬ顔をして日常を過ごす。
助けて。
付箋が、自宅のポストにも入っている。
少し新しい。
不気味に思って、いったん写真を撮る。自宅の玄関付近の防犯カメラには、誰の姿も写っていない。自分と、家族以外には。
何だ?
数日間、警戒していたが、付箋に変化は見られなかった。
付箋の謎は何一つ分からないまま、一学期を終え、休暇に入る。
そして久方ぶりに、自室のドアに貼られた付箋を見る。
助けてくれ、早くしないと。
付箋の文字は揺れている。
思い出してくれ。そこにはもう誰もいない。
剥がしてみると、書かれているのは表だけではなかった。
乱れた文字は、付箋の裏側に、小さく書き込まれている。
道理で、この街に誰もいないと思った。何年も前に卒業した学校に、静かに授業の声と気配だけがあって、だから多分、長い夢を見ているのだと思っていた。
目覚めかたが分からなかったんだ。そうだろう?
呟くと、付箋がいくつか降ってくる。
起きて。起きて起きて起きて。
寝ていたい自分と、起きようとする自分の、付箋だけのやりとり。小さな、小さな願いの手紙。
長い昼寝のつもりだった。
起き上がれば、窓の外は灰色の空。賑やかな鳥たちの声。
記憶を辿れば、時計はわずかしか動いていないようだ。ほんの五分もしない昼寝だった。
失われた故郷の夢。窓の外に人はいなくて、夢の中で、くらいは、もっと騒がしい世界を生きたかった。
取り残された島で、あきらめて、深く息を吸った。




