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夢の向こう
「夢だったの!」
夢だったと繰り返す娘に、大人たちは残酷だった。
「夢じゃない、お前は異界へ行ったんだ。竜に何か貰ったね?」
異界渡りの夜、外へ出ると連れて行かれる。戻って来た時には、何か与えられていることが多い。
「お願い、思い出させないで」
「ほら、ね。夢だった」
娘は一人、荒涼とした大地に立つ。家に帰れない彼女に与えられたのは、望みの景色が見える力。まるで帰ったように、あの場所へ行ける、夢。
魂だけが幽霊のように帰る、と竜は言うが信じられない。
ねぇ遊びましょ? 生死の境なくさまよう妖精らが、花畑へと誘ってくる。断って、また最初から想像し直す。
目指す場所、夢の向こうへ。
第五十八回のお題「夢」#Twitter300字ss @Tw300ss
 




