光の輪っか
光の輪っかをもらった。
「いいことをしたので、ひとつさしあげます」
塀に腰かけた天使が、羽を開いてにこにこと投げてきたのだ。
「痛っ!」
「あら、不器用な子」
頭に当たって痛がる私に、天使はまったく悪気を認めず、じゃあ、と言って飛び立ってしまった。
その足首には、白いハンカチ。私がさっき巻いてあげたもの。夕日にはえて、オレンジ色にも見えている。
少し前、天使が裸足で路面を歩いていた。
茶色のまだらの羽は、繊細というよりたくましくて、すらりと伸びた手足は長く、猛禽類の金色の目、鮮やかな麦色の肌に、抜けかけた羽が散っていた。
違う、あの羽は、この天使のものじゃない。
色が違う。抜けた羽は白いし、天使のものより、一枚の大きさが、小さかった。
天使が、片手に人形みたいなものを掴んでいて、それを丸呑みした。小さな天使を食べていたらしい。
天使、だと思っただけで、それはもっと他の生き物だったのかもしれないけれど。
足に血がついていたから、目があったとき、手当てしましょうかと、とっさに言ってしまったのだ。
言葉が通じる相手ではない気もしたけれど、天使は何事かぶつくさ呟いて、やがてこちらに分かる言語で、手当てとやらを許します、と言った。
「うん、何かちょっとやばかった」
無事に済んだからよかったけど。
回想を打ち切って、とりあえず歩き出す。
頭の上がほの明るい。
今、空に見えている土星みたいに、私の頭の輪っかは、私に付き従っている。
散歩中の人に奇妙そうに見られるのに困惑したので、輪っかを手で掴む。うまく取り外せた。思ったより軽い。携帯端末なんかよりずっと。
掴んだまま家に帰って、ハンガーに引っ掛けた。
部屋の中に月を招いたみたいになる。
困ったので、クローゼットに閉じ込めてしまった。
翌朝には、輪っかは消えてなくなっていた。優しくしてあげなかったからなのか、それとも、天使への親切の大きさ分の光だったのか、分からないけれども、今度天使に出会ったら、聞いてみてもいいかもしれない。
アンソロジー光web版への参加作です。
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