じょうずにひいたらすぐにほどける
#ヘキライ 参加作品です。第13回のお題は「ちょうちょ結び」
じょうずにひいたらすぐにほどける
「だからね、言ったじゃない」
少女の首にリボンを巻く。ゆっくりと。サテンのリボンは光沢が上品で、薄紫の色が少女の肌によく似合った。今日の夜会に向けて、ドレスも髪型も完璧だ。
少女はまだ話している。小さな端末を睨みつけて。端末越しの声はフラットで、少女に適当な相槌を打ち続けている。
そうだね。うん。ああ。そうなの。へえ。
ふと静けさを感じた。視線も。
少女が、無音の端末を片手に、こちらに振り返っていた。通話は終了したようだ。
視線を読んで、美容室みたいに手鏡を出し、少女に彼女の背中を見せてやる。
見る間に、少女の顔がぐしゃりと歪んだ。
「ちょうちょにしてって、言ったじゃない!」
ばし、と、端末が叩きつけられる。端末のフレームが歪んで、こちらはただ謝罪を繰りかえす。
「謝ってばかりね、ナニーロボットって」
吐き捨てて、少女は端末とこちらを置いて部屋を出る。
私にちょうちょ結びを教えなかったのは、貴方ではない。
だから泣かなくていい。
貴方に、執着心を持たせるために、旦那様がしていること。ちょうちょに結んだリボンの女性ばかり、コレクションする旦那様。
私は黙って貴方の世話をするけれど、夜ごとに、貴方ではないひとのものに戻る。
私と貴方では違うけれど、ちょうちょ結びで結ばれている。
リボンをじょうずにひいたなら、こんなものは、すぐにほどける。