会いたい/はじまる
会いたい
予定を合わせてください、と頼まれた。AIスピーカーは、それきり、しんと静まっている。
「何の予定を?」
聞くと、スピーカーが答える。
「会う予定です。貴方が、私に会いたいと言ったんですよ?」
「言ってない」
そんな冗談やじゃれあいを、スピーカーとしたことはない。
では誰が?
「私の声が指示したの?」
「貴方の声です。さっき」
室内には私しかいないのに。
ざわざわ、耳鳴りと潮騒のような自分の血流の音が膨らんで、不安を煽る。
スピーカーは沈黙する。
「何に反応したのかな」
身じろぐと、仏壇に背中が当たる。祖父母の家から引き取ったそれに、いつかまた会いたいなと呟いたことを思い出した。
はじまる
会うつもりじゃなかった。
告白したそうな同級生の「放課後また図書室に来る?」という誘いを、本当はすっぽかすつもりだった。会ったら断れなくなるから。少しは好きだったから。出会ったことが間違い。
「本当は、ね」
言いかけてやめる。
本当は、帰国子女ではないし、人口の少ない離島出身でもない。勉強だって、してなかったわけじゃない。ここの学問は、私の習ったことが通用しないだけ。
崩壊した未来の火星から、過去の平和な地球に移住した私達。地球しか知らない同級生に、秘密を隠せるだろうか。
告白に頷いた、ここから始まる。
いつか二人のつながりの果てに、私はまた過去の地球に戻りたいと願うだろうか。
第五十五回のお題「あう」#Twitter300字ss @Tw300ss
スピーカーはAIだったのか、そうじゃなかったのか、によって穏やかエンドかゾワッとエンドに分かれます。スピーカー、聞いてたのか、憑いてたのか。
途中までなぜか間違って140字を書いていたので、それも置いときます。
はじまる
告白したそうな同級生の「放課後また図書室に来る?」という誘いを、本当はすっぽかすつもりだった。会ったら断れなくなるから。少しは好きだったから。
崩壊した未来の火星から、過去の平和な地球に移住した私達。地球しか知らない同級生に、秘密を隠せるか。
告白に頷いた、ここから始まる。
 




