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入浴中
風呂に入っていると、湯船の温度がどんどん下がってきた。
動きたくなくてそのまま座り込んでいると、浴槽の端に、王様ペンギンが現れた。
「どうぞ、そのまま」
と言われたのでじっとしていると、だんだん湯温が上がってくる。どうしたことか、とペンギンを見やると、ペンギンは片目をつぶってみせた。
「長年、亜南極を出て南極までもを旅しましたが、観測船で風呂の文化と出会いましてね。修行を積み、南極を離れて各地の温泉地を転々として、今では適温を維持する能力が身につきました」
ライバルはアデリーペンギンだという。同業者がいるそうだ。彼らペンギンの、個体名を尋ねてみたが、人の耳にはうまく聞き取れない。
「名前が分からずとも、切実にお呼びになれば、いつだって馳せ参じますよ」
王様ペンギンは安請け合いして、揺らぐ湯けむりの中に消えていった。




