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誰の恋かは知らないが
体に花が咲く。恋をすると頭のてっぺんに。強い願いがあると、首裏に。
その奇病は、この地域に踏み込むと途端に始まるが、境をまたぐと消えてしまう。
「集団幻想みたい」
花は写真に写る。映像の中、ゆるゆると首をもたげた蔓植物が花開くところは、この地域の子どもなら学校で見せられる。
人以外、計器を持ち込めば計器にも花が咲く。
普通の花と同じ組成で、でもどこからも水分や栄養をとっている形跡がない。
「折角咲いたのに」
下校途中に彼女がぼやく。境の外の塾に通うから、花は何度も消えてしまう。戻ればまた咲くけど。
「私の気持ちなのに」
また育てたらいい。頭のてっぺんに。誰への恋か知らないけれど。
第五十二回のお題「咲く」#Twitter300字ss @Tw300ss
 




