ワラシ/空っぽの空
ワラシ
空色トンボを捕まえた。早く見せなくては。青緑のオニヤンマ、細いほそいクロイトトンボ、せわしなく飛び回る昆虫たち。
誰もいない野原を駆けて、家に飛び込む。
ねえ、見つけたよ!
叫び声は家の中にこだまする。
まだ、誰も帰っていないみたい。いつからだっけ?
長いながい夏休み。
人々が街へと引っ越して出てしまい、取り残された集落で、座敷わらしは留守番中。
連れてってくれる人もなし、ただただ終わりを待っている。
空っぽの空
空っぽの空に落ちていく。春夏秋冬。霞がかり、朧月がそよぐ空。立派な入道雲。夕暮れの空。雪雲に覆われた空。
全部、君と過ごした空。
君を探して飛び回る。
雲や月、星はあるのに、鳥も飛行機も見かけない。
ぴぴぴっ。
「いかがでしたか?」
ゴーグルを取り上げて、店員がお仕着せの笑みを振りまいた。
「普段忘れている記憶にもアクセス可能。高度な瞑想体験をサポートします」
「貴方も、見ました?」
問いかけに、店員は曖昧に頷いた。
「昔の飼い猫を。顔がぼんやりしていましたけど、何度も繰り返すうちにはっきりするらしいです」
空っぽの空。
二人で見上げた空。
記憶は薄れて滲んでいく。
第四十三回のお題「空」#Twitter300字ss @Tw300ss




