肉の話
サバンナのライオンだって、もっと分をわきまえている。
「ねえ、お肉食べたい」
可愛らしい顔で、彼女は強欲に言い募る。
こちらもとっさに言い返す。
「さっきから食べてるじゃん」
こちらの財布は、胃袋とおんなじ、空っぽに近い。
「だって! 合格のお祝いしてくれるって言った」
「言ったよ。言ったけど、そんなに食うなんて聞いてない」
自分も食べたい。さっきから網の上に肉を置く係になっている。食べるのはもっぱら彼女。
「キャベツあげるね」
うさぎみたいに可愛く首を傾げているが、それよりその、つかまえている肉をこちらの口に入れてほしい。最初の味見しかさせてもらってない。
「ねえその肉……」
「飲み物追加しよ!」
全然聞いてくれない。
飲み物と言ったのに肉を注文された。高いやつ。
「じゃ、私が飲んでる間、食べてていいよ」
やっと、肉の気分が一段落したらしい。こちらがせっせと焼いて頬張るのを、にこにこ機嫌よく見つめている。
「そんなに見られてると、食べづらいんだけど」
「やだほんと可愛い。残ったら私が食べてあげるね」
肉に、焦げたキャベツの切れ端がついている。口に放り込むも、甘い毒みたいに、じんわりと、ほの苦い。
「じゃ、野菜食べなよ」
言い返すと、やだ、今日肉を食べさせてくれるって言ったよね、と言い返された。
空気が煙たくて目にしみる。
あの唇がこの後何をするのかを知っている。
見た目はうさぎみたいなのに、彼女はとっても、野蛮なのだ。
こちらができることは、ときどき文句を言いつつ、甘やかしてやることだけ。たぶん。
『強欲』
『サバンナ』
『毒』
Lets 創作
#三題話
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