きっと鬼とは遊ばない
#ヘキライ 第61回お題鬼
知人の家を訪ねると、あてにしていた相手は留守だった。すぐ戻るというので待たせてもらう。
通された座敷には火鉢一つなく、庭は障子をたてられて、見ることすらかなわない。
なぜか、渡された一合升に、軽く煎った大豆が入っている。少し考える。ちょうど時節だし、これを投げろということだろう。
何に?
がたがたと、障子が鳴る。障子の白に、影が映る。頭の先が見えない、かなりいかつい大男だ。いたか、いや、いない、と騒いでいる。数はひとり。
升の豆と影を見比べてから、投げるのはやめることにする。
ときおり障子ががたがたと鳴ったが、黙っていたらこちらへは入ってこなかった。
しばらくしてから、障子が、すっと引き開けられた。
「おや。投げなかったんですか、豆」
障子に手をかけたまま、和装の男が、苦笑いしている。
「遊んであげたらよかったのに」
「毎年来るんですか、あれ」
「まぁ、たまに。鬼も大変ですね、何やら大切なものを持ち逃げされたそうですよ。何度来られても、そんなものはないのですが。何しろ、赤鬼と青鬼の揉め事に、人間が関わっても仕方ないでしょう」
男は笑いをおさめて、こちらの升に手を伸ばした。
升をひっくり返すと、豆が畳にこぼれおちる。
豆の山の真ん中に、金色のまるい玉があった。
「こんなところにあった。遊んであげたら、こういう品をまたくれますよ」
「また?」
ということは、遊んだことがあるのだろう。
「以前、青鬼と。通りすがりに脅してきたので、豆を投げたら、これをくれたんです。どこかから逃げる途中だったらしく、出くわした人間さえ怖くて仕方がなく、逆に脅してしまったようです」
「それって……」
さっきの影が探しているのは、その鬼と、この、玉ではないだろうか。
言いかけたこちらに対して、相手は、再び笑ってみせた。
これは知っている。知っていて、やっている。
突っ込むのはやめて、所用の話だけして帰ることにした。
※ifの話。ソラとたすくのような気がします。




