表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/230

竜がいた

#ヘキライ 第8回お題「コーヒー」参加作品です。

「旅人さんかい? 運がいいねえ」

 なみなみと注がれたコーヒーのカップを受け取りながら、そんなことを聞いた。

 古い絨毯に似た日除けの幕の下、メラニンに守られた肌と真っ黒い目の男が、ぐつぐつに煮たコーヒーをさらに煮詰めている。

 コーヒーにぶち込まれたヤギの乳は、牛より悪くない。舌を火傷させて数口飲み込む。

「日が昇るとき、正午、日が沈むとき、一日に三回だけ、時報の鐘を鳴らすんだけど、今日は竜が来てる」

「竜?」

 竜が、って、あの? ドラゴンってやつ? 羽毛恐竜と違って、そこそこ硬い肌をしてるという。

 こんなところにいるのか?

 赤褐色の硬い大地、街を囲む古い城壁の崩れた向こう、びゅうびゅうと風が吹きすさんで、個人用のミニ飛行機もうまく飛べない。

「旅人さん、どこから来たの」

「あっち」

 さっき降りたジープを指差して、またコーヒーを飲み込む。ぶわっとした獣の乳の匂い、それを上回ろうとするコーヒーの匂い。燻製したお茶ばかり飲んでいたから、コーヒーはびっくりするほど懐かしかった。

 突然、音がなくなった。地面が揺れた。コーヒーの水面が大きく波打っている。

 耳が機能しなくて、全身がびりびり震える。

「竜だよ!」

 手と口パクで、コーヒー売りの男が教えてくれた。

 ごう、ごう、ごう、と、大きな獣が吠えている。

 空を見上げれば、巨大な航空機。

 何だ、あれが竜の正体か。

 がっかりしていると、航空機が過ぎ去った頃にもう一回、同じ声が響いた。

 振り向けば、高い城壁の上に、太い足で掴まって、生き物が大きく口を開けているところだった。

「だから言ったろ、竜がいるって」


 冷めかけたコーヒーに、煮詰めたコーヒーを追加してもらう。

 まだ砂の湿った、日が昇りきれば明るい、真昼の砂漠の端。

 さっきの竜は、時報が終わると飛んで行ってしまった。

 名残惜しいけれど、ジープが出るようなので、街を後にする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ