犬と人間
#三題噺2017to2018 お題は「犬」「新」「30」
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ふんわり。
犬と人間
新しい犬を飼いました。30番めの子犬。名前はシロ。
「私の子犬、ばれましたよ!」
「子犬ってガラじゃねえが」
ライフルをカバンに突っ込んで、私の子犬は走り出します。私のことを小脇に抱えて。
私はまだ子どもで、成人よりは体重が軽いけれど、それでもライフルよりは重いはず。成人男性とはいえ、この腕、どうなっているのかしら。
「おっと!」
子犬がとっさに物陰に転がりこみます。
射手は、位置を知られると逆に狙撃され放題です。最後の最後まで、本当は撃ってはいけなかった。耐えきれなかったのは、子犬の失敗です。
本当にこのまま空港に行けるのかしら。
「あんた本当に狙われてるんだな。ただの子どもに見えるんだが」
「ただの子ども、ではありません。私が貴方を飼いましたよ。飼い主です。ねえ、30番めのかわいい子犬。今度は、長生きしてくださいね」
にっこり笑って言うと、子犬は嫌な顔をした。
「最近の雇い主は、人のことを犬呼ばわりか」
「パピーちゃん。危ないですよ」
また狙撃。お互いの場所が分かっていて、不毛な戦闘です。どちらも未熟、ねえさんたちも失敗が多いから、これは仕方がないことです。
「私は、人間が好きなのです。ですから、人間は殺しません」
「俺が犬なのは、人間じゃないからってか?」
いいえ。
貴方は人間。むしろ、ねえさんも私も、たぶん人間ではないのでしょう。
「私のかわいい子犬、どうか走って。空港のロックも全部解除しますから。システムというシステムは、それが電脳である限り、私の配下に置けます。貴方には、私の代わりに、邪魔立てする人間を払ってほしいの……私には人間を殺せない」
ふん、と子犬が鼻先で笑います。他人に人殺しの肩代わりをさせるってわけか。
否定はしません。
できればさせたくない、だから私の子犬、できるだけ、人間は残して。
「空港なんかに行って、どうするってんだ」
撃ちかわす合間に、子犬はそんなことを聞きます。
古風なライフルは、残弾が容易に予測できる。補助のために、合間で演算して、周囲のスピーカーを探し、そこから銃声を増やして撹乱します。子犬はちょっと顔をしかめたけれど、ねえさんたちはごまかせるから。
航空機一つを捕まえて、南の海に墜落すれば、パパたちだって私のことは死んだと思う。
海水は、私たちの体に毒ですから。
弾に撃たれるのと墜落とでは意味が違う。私が撃たれて、私の電脳を回収されたら、また檻の中に戻されます。これで試行は30回。せっかくの物理素体、むざと捨てるわけにはいきません。
海で、死んだふりをして、きっと。
「外の世界へ行きたいの。ねえ私の子犬。きっとたどり着きたいの。誰の支配もない世界へ」
「わがままなお姫さんだなァ」
私たちは、きっと外へ。
※
「なぁ、これ休暇とか手当は増えないのか?」
大海にぼんやりと浮かんで、衛星が通るたびに沈みながら避けて、子犬がぼやきます。
「あんたは人間じゃないかもしれないが、俺はただの人間なんだぜ? ここまでやって命張ってんだから、もう少し何かあるだろう」
それは、陸に着いてから考えます。
あと一分三十秒で、船が通る。
彼らに正体を知られないよう、うまくやってくださいね。
かわいい子犬。
私は貴方のことも、できれば死なせたくないんです。
だから、頑張ってくださいね。
#三題噺2017to2018 お題は「犬」「新」「30」




