褒美の品を君に
褒美の品を君に
発表会を終えて、少女はステージを降り、叔父のもとに戻ってきた。
「また、次があるさ」
「そういうことじゃないの」
家族は仕事で、ピアノ教室の発表会くらいでは来てくれなかった。保護者の代打を頼まれた叔父は、運指をミスしただの衣装が気に入らないだのと膨れている姪を連れて、慰めようのないまま、会場を後にする。
帰り道、街なかはきらびやかな季節イベントモード。ますます、叔父は気まずくなる。姪は唇を結んだまま、行き交う人を睨んでいる。叔父はため息をかみ殺す。叔父自身、人間修行が足りなくて、いつもうまく、機嫌をとってあげられない。
ふと、姪が立ち止まる。
ショーウィンドウ越しにも、キラキラした店内が目に眩しい。あれがほしい、と、ねだられたので、店に入る。
あれとこれ、と幼い指先の示すままに、叔父は次々に品を買い求める。
赤、青、桜色。とりどりの色。艶めいたコーティング、艶消し、複雑なおうとつ。さまざまな形状に作られた、チョコレート菓子。
途中、店内で、試供品を口にする。
「美味しいか?」
見下ろすと、姪の指先にも唇にも、ゆるく溶けたチョコレートが広がっている。
「食べる?」
今日、手伝ってくれたお礼、と、姪はつたない口調で言う。
「いや、手伝ってないよ? っていうか、演奏を聴かせてもらったほうなんだけど」
「手伝ってくれたよ。私、聴いててもらわないと弾けないもん」
「そっか」
姪の頭を撫でて、叔父は身をかがめる。
姪がチョコレートを、叔父の口に押し込んだ。
少し痩せた財布と引き換えに、差し出されるご褒美はすこし苦い、蜜の味。
#ヘキライ
第57回お題「ご褒美」




