さみしいひと
ヘキライ第55回お題さみしいひと
さみしいひと
「おいてかないで」
森を歩いていると、舌足らずな声が聞こえた。
きのこやシダの茂る辺りに、小さな子が立っている。すっぽりとフードを被り、顔は見えない。
「僕は外へ行くから、君を連れていけないよ」
「おいてかないで」
手のひらよりも小さい背丈の子は、同じ言葉を繰り返す。
質問を変えてみる。
「どこから来たの?」
小さな子は、あっち、と森の奥を指差した。木々の根元、ごろごろと、様々な動物の骨が転がっている。
「さみしいからって、あんまり何度も人間を誘い込んではいけないよ」
そう返した後は、振り返らず、しばらく歩く。
「おいてかないで」
付いてくるようだ。
少し考えてから、その辺の木の実を拾って、ペンで目鼻を書き、地面に置く。
「これはおもちゃだけど、要る?」
小さな人は頷いた。
「気に入ったならよかった。ところで、僕はもう行くよ」
小さな人は微笑んで、おもちゃと戯れている。もう、付いてこなかった。
精霊とも妖精ともつかない人は、鳥獣さえ通わぬ森の奥で、ひとりぼっち。
「……先人の記録によれば、この奥に、墓守がいるらしいんだけど」
良からぬものか、良きものか、何かの墓を守るらしい。
「あの子は、守る方と守られる方、どっちだったんだろうね」
先人の記録を書き写した帳面に、自分のメモを追加して、ぱたんと閉じる。
「さて。近道のつもりが遠回りになった。少しペースをあげよう」
森の奥、まだ、小さな人の笑い声がかすかに聞こえる。




