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月の美酒
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お題は酒
月の美酒
月の明るい晩のこと。
仕事帰りにすすき野原を渡っていると、さやさや鳴るすすきの向こう、真白いうさぎが跳ねている。
不思議なことがあるもので、うさぎたちは朱塗りの椀を並べており、酒を注いで歩いている。酒のおもてには、金箔めいて月がうつりこんでいる。
そういえば聞いたことがある。大きな満ち月の夜だけ手に入る、月の美酒。受けると不死になるという。
なるほど、若いうさぎたちは、月をうつして飲み干すつもりだ。
賑やかな宴であれば、曲を合わせて相伴に預かれたかもしれない。けれど、雲が走っただけで臆病なうさぎは散ってしまう。
結局、雲が増え、うさぎは酒を放り出して行ってしまった。




