表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/232

残土

残土


 薄暗い土間に膝をついて、それは言った。

「白状いたします、どうかお許しを」

 しろい手の甲が、泥で汚れている。先ほどまで、見知らぬ男と取っ組み合っていたからだ。

「あなた様のお疑いになるようなことは、けっしてございません」

 確かに十数年、彼女は我が家の飯炊きや仕事を手伝ってきた。野良仕事には細い体が向かなくて、野山であけびや他の蔓を探しては、カゴなど編んで、町へ出る者に預けて、日銭に変えてきた。真面目な働き手であり、よき夫婦のようなものであったと思う。

「しかしな。毎回、日銭の一部を持ち出して酒を買い、祠にやるだけならと許してきたが、今日は男が来たではないか」

「あれは、父です……」

 毛深き男は、途中で完全に狸になり、また人に化け直したりして、娘と喧嘩して帰ったようだ。

「父は酒呑みですが、人から酒をぬすむのはよくありません。私が出稼ぎして届けているのです」

 最近カゴが思うように売れず、酒を運べなかったため、父狸が来てしまったようだ。不埒な狸で申し訳ないと、娘は頭を下げている。

 さて困った。とりあえず土間から立ち上がらせ、手足を拭わせる。

「仕方ない、君の父には、次会ったときにでも文句を言おう」

 十数年の間、一度も化け損なっていないとは言えない、だから狸だということは知っていた。もし、知られたと気づいた狸が逃げてしまったら、さみしいではないか。

「まあ、夜も遅い、一晩寝てから考えよう」

 土間に残った乱闘のあとも、明日片付けてしまおうと思った。

300SSのお題「酒」になりそうで微妙な長さだったので、先に流します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ