233/233
それは獣の
巣穴に追い込まれた。
野生の幻獣は珍しく、乱獲され、好事家の手に渡りがちだ。ネコ科に似た自分は、本当の親を知らず、美しい縞の大型獣の母に育てられた。ザラザラの舌で毛繕いされ、大事に育てられたが、兄弟も母も撃たれた。家畜を襲ったというが、冤罪なのに。
「見つけた」
人間が巣穴に向けて言う。言葉が分かる。虎のようで、あらゆる言葉を理解する、世界を識る力を与えられた幻獣だから。
幻獣は連れ帰られ、人のように手当てされた。人の目的は知らない。ただ優しい人の手、言葉掛けがあった。
だが自分は獣だ。
野生から救い出したつもりの飼い主の、喉を食い破り、逃走する。
巣穴は空っぽのまま、風が吹く。
#Monthly300 @mon300nov
毎月300字小説企画第35回お題・穴




