仮面
峠の仮面屋で仮面を買う。東西様々な面は、シンプルであったり、ごてごてした飾りがつけられたり。贈答用の物を一つ、追加で買う。
店を出て、川向こうの町までは、まだかかる。
川にたどり着き、橋まで行くのも億劫なので、浅瀬を渡ることにする。
中州を越えた頃、おうい、と声をかけられた。黒い布のようなモノが、中程の茂みからやってくる。人間かどうか聞かれるので、違うと答える。さっき買ったばかりの仮面をつけておくと、ソレは見て、納得して通り過ぎる。
代わりに、向こう岸から渡ってきた、仮面のない旅人が襲われかけたので、追加分の仮面を取り出して付けてやる。ほら、もう人間はいない。いないよ、とソレに話しかける。
人間怖い、と、見かけ倒しの言葉を吐いて、ソレはいなくなる。
中州に巣があるんだよ、刺激しないでやってくれ、と旅人に教えておく。
きっと旅人は忘れてしまうだろうけれど、アレは人間をぐるぐる巻きにして川へ放り込むだけなので、それほど悲惨な害はない。ないから、この辺の人たちは仮面を売り、手に入れて、かわしているのだ。
捨てられてかまわないと思われた人だけが、この辺の峠で仮面を買う必要を教えてもらえない。何かしたのかもしれないし、特に理由がないこともある。
旅人は文句を言いながら立ち去った。峠のあの岸の店でも、何も教えてもらえないかもしれない。あの山には山姥が、そっちの山には狼がいて、それぞれしのぎ方が決まっている。
さて、と町へと歩き出す。仮面を被ったまま。何しろ、人の顔がないもので。
奥の山の主でも、町で人を見たり、最近の物を知りたいのだ。山奥で編んだカゴや小物を店に卸して、少し話して帰るのを、楽しみにしている。
さて今日はどんなふうか。
仮面の下で、うっとりと笑っていた。
せらさんへのお題は、
【峠の仮面】、【贈答用の】、【中州】です!
予備:【見かけ倒し】
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