春の娘と冬と旅
噂の冬がやってきた。灰銀の上着は毛並みが豪奢、雪に紛れる長い髪は風で流れる。
春の娘たちはもこもこに着膨れて、代わる代わる、外に立つそれを覗き見た。
古代語のわかる者を求められて、春の母たちが振り返る。末娘は「かあさまだって話せるくせに」とぼやきつつ、冬の前に立った。
少し話すと、冬は季節の向こうへと旅をしていると分かる。大昔、なぜか分たれた季節をかたどる者たちは、暦に合わせて流浪し、時期が来ればまた故郷で息を潜めるのが習わしだ。冬から古代語の書物を見せられて、それがさほど古いしきたりでもないことに気がついた。
「あら、本当なのかしら」
「どうもそうらしい。今、私の誤読でないことが分かって安堵した」
「季節が失われたから、左右する者を人為的に作って野に放ったなんて」
全部は言えなかった。冬が大きな掌で春の娘の口を覆い隠したので。
面白そうなので、春の末娘は身支度した。こっそり抜け出そうとしたが、姉や母たちに捕まって、さらに防寒着や食糧などを上着の中に押し込まれた。
それで早朝の雪の上に、点々とお菓子をこぼしながら歩くはめになった。
「貴方はつくづく、春の娘なんだな」
「なあに? 褒めても何も出ないのよ。お菓子しか」
「そうやって、ちょっとした恵みを垂れて歩くところが」
「あまり褒められた気がしないんだけど」
春の母たちに頼まれて、うんと言うまで外に出してもらえなかった冬は、諦め気味に、春の娘を連れて出かけた。
お菓子は、村の境目までついてきた姉たちが拾ってくれた。
「村でいちばんの、知識を求めることには貪欲な末娘。どうか無事でね」
姉たちが代わる代わる、祈りを叫ぶ。
こうして、冬と共に、春の娘は旅に出た。
「貴方、本当は春の力が必要だったから、わざと読ませたの?」
「そうだね」
冬は笑って、次は夏と秋を捕まえようと応えた。きっと季節のことが分かるには、季節の者がいた方がいいから、と。
せらさんへのお題は、
【噂の冬】、【古代】、【わかる】です!
予備:【話す】
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