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空(から)の玉座
目の前の男は、煤けた玉座に、縋り付くようにして座り込んだ。
「満足した?」
問えば、
「こんなもののために」
呟き、顔を覆って前屈みになる。
「父母も誰ももういない。お前しか」
「それももう終わる」
剣を抜けば、男は皮肉そうに笑った。
「力を貸す代わりに、この魂がほしいと言ったな」
祖国を奪われた男が、自身の座るべき玉座に戻った時、こちらは手伝いの代償を受け取る。
「お前の父母が隣国に呪いを撒き散らした」
「国を追われ、恨みが募ったからだ」
「だとしても地を穢すことはなかった」
小さな椅子に腰掛けたまま、男は剣を避けもせず、命を失った。
この魂で呪いを解く。せめて安らかに消えよ。
#Monthly300 @mon300nov
毎月300字小説企画第17回お題・椅子




