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生き延びて
みんな忘れてしまった。口呼吸も鼻呼吸も。吸い込むと肺には水が満ちる。吐き出すのも水。
人魚の遺伝子と混ぜられ、海で生活するようになって何年も経つ。不老不死手術後の人達は大変だった、人魚にも人にもなれず、不気味な塊になって海沿いをぬらぬらと歩いた。
マントル近くに生息していた何かが噴き出して海は変わり、様々なものが変質した。適応まで何百年も待てず、いろんな遺伝子操作で誰か一人くらい生き残るはずだった。
自分がどんな姿だったか、海底の石碑を眺めて思い出す。ここは昔、陸だった。
スカートをはきスニーカーで地面を蹴って歩いた日々。
きっともうすぐ、全部忘れる。
さようなら私。新しい私へ。
#Monthly300 @mon300nov
毎月300字小説企画第14回お題・忘れる
 




