豆の季節/植木鉢の花
豆の季節
豆を植える。大きく育てて、雲を割る頃、装備を整えて登り、上空の彼女に会いに行く。
雲を踏み、数軒立ち並ぶ通りに向かう。呼び鈴を鳴らせば、
「あら、何で来たの?」
素っ気なく言われた。いい瓜ができたからと渡してすぐ帰る。
「帰り、寒いでしょ」
と、彼女が肩に羽衣をかけてくれる。
「また今度返しに来てね」
約束を胸に植えて地上へ帰る。地上は栄華の終わった広い野原。秋の夕暮れ。枯れ落ちた豆の木。
数百年の経過した地上で、また見知らぬ怪しい者として暮らす。
新しい豆を植えて育て、天上の変わらぬ彼女に会いに行く。
生まれ変わっても。地上が高層ビルに満たされても。
豆の季節が巡っていく。
※
植木鉢の花
勝手に生えてきた。植木鉢に。ミニトマトが枯れた頃に、緑の葉をちょこんと生やして。
水もやっていないのに、すくすくと茎を伸ばして育ち、つぼみをつけた。
「こんにちは」
と、開いた花が言う。
くるんとしたまつ毛、つやつやの目、小さな鼻と口。
人形の顔みたいなものが、花弁の真ん中に据えられている。
とうとう疲れ果ててしまったのだ、壁や植物が話しかけてきたらどうかしている証拠。
呆然としていると、花は砂漠に植えられていた頃の昔話を始めた。
過酷な旅の末に砂漠に根づき、それでも精一杯生きた日々。
「最後までご清聴ありがとう」
その言葉を最後に、真ん中の顔は消え、花だけが静かに残された。
#Monthly300 @mon300nov
毎月300字小説企画第9回お題・育つ/育てる




