朝/朝うたう
朝
朝になったら。小鳥が鳴いて。明るい空の下で。窓の外で手を振っていたあの子が来る。遊びに行こうって。
言ってくれるはずだった。
水没した外の世界は、まだ土砂降り。
叫んだって誰も返事をしなくて。
水槽の中で退屈していた人魚は、這い出して、窓を開けて外へ落ちる。
明るい水色に水没した街。
色とりどりの魚や見知らぬ何かが泳いでいく。
水槽向きの柔らかな腹びれや背びれは、すぐに擦り切れる。
水面から顔を出して歌えば、水中の魚達がくるくると舞い踊る。
ずっと遊びに行きたかった世界は、変貌していた。
傷だらけで歌い続ける。
何か達は、人魚の友達にならず、遠巻きに眺めて泳ぎ去った。
※
朝うたう
朝のこと好き? みんな夜ばかり好むの。明るくてうるさい朝よりも、夜がいいんだって。
朝に生まれたから、朝はこういうもの。朝を司って、ちゃんとしなきゃ。
くよくよして膝を抱えて泣くのを知ってるのはお前だけよ。夜はいつも薄笑いでいて、それはそれで疲れるって。大きな声で笑ったり泣いたりするのが好きなのに、できないから。役割って、大事だけど変ね。
辛いなら、さらってくれるって? 夜を置いていけないけど。
そういう道もあるかな。
日食の日に、朝と夜を司る巫女達は神殿を抜け出した。神事の隙を突いて。二人を見守っていた白い狼と共に。
狼は日と月を食らったと言われ、笑いながら野を駆けていく。
#Monthly300 @mon300nov
毎月300字小説企画第7回お題・朝




