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誰のためでもないものを/残したいもの

誰のためでもないものを


 自分から触りに来なくてはいけない。興味のない野良猫に、無理に餌や首輪を渡すことは難しい。

 隣で素知らぬ顔をしつつ、本を読む。時には鼻歌を。猫は初め、窓から忍び足で侵入し、風のように駆け去ったが、いつのまにか声を出して自己主張し、撫でろと要求するようになった。

「野良猫扱いとは」

 憤慨する姫に読みかけの本を奪われながら、「野良猫でしたよ。ここに来るまで野山を駆け回るばかりで」と返す。

「ふん。今や勉学もお前を超えたぞ」

「お菓子に釣られて下さってよかったです」

「お菓子のためじゃない」

 辛抱強く待たれたから、その気になったのだ。

「私の隣でいい宰相にでもなれよ」

 過分な言葉が光と降る。



残したいもの


 舞う落ち葉にじゃれついて、森を駆け回る。

 この森も、もうどこにもない。魔法使いが戯れに描きとった、一枚の絵の中に残るだけ。

 実際の木々でも妖精でもないのに、あの頃の景色、妖精たちがいる。

「私、ポケットサイズの絵を描いて、集めて帰って来る。またいろんな時代の景色が残るよ」

 寂しくないよと、獣の耳と尾をそびやかして、友人となった魔法使いの見習い学生は言うけれど。

 春の絵から抜け出して、過去の秋で遊ぶ妖精は、勢いよく息を吸い込む。

「いいのよ! 世界は移り変わる。新しい景色を見に行きなさい。私に気を遣わないの」

「絵が上手くなったら試してみたいの」

 私も残したいから。友人は笑った。

第九十二回のお題「来る」

#Twitter300字ss @Tw300ss


「残したいもの」は「万能絵画閲覧室」のスピンオフです。https://hswelt.booth.pm/items/2538721

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