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歌は流れる
流れる水に苔は生えないというが、掃除を頼まれた知人宅の池には立派に生えていた。
池と、飼われている亀と竜に。
不満げな彼らを池の外に追いやり、ブラシで底を磨き始める。どろどろの水分から、アワアワと魚やエビが逃げる。イモリに似たものが、一丁前にライターみたいな炎を吐いた。
竜は池の周りを回って、後ろから覗き込んできた。鼻息が強いので、池に浮いていた水草が翻る。
飼い主の許可はあるので、亀についた苔もブラシで擦る。竜も背中や腹を見せてくるが、苔は多くない。擦って遊んでやる。
気分が良いのか、竜は歌って雨を呼んだ。ふわりとした小雨が流れ、庭木に花々が咲き、雨がやむと幻のように消えた。
第九十回のお題「流れる」
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