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小鳥と夫人とそれから夫

 小鳥を逃してしまった夫人は、言い訳を考えていた。空色の小鳥は夫の可愛がっているもので、夫人が結婚する前から飼われていた。おかげで小鳥は夫人に懐かない。餌やりも掃除も夫人がしているのに。今日、部屋の窓は閉まっているから、室内のどこかにいるはずだった。早く捕まえないと、おちおち買い物にも出かけられない。夫人の険しい眉間を、あざわらうように小鳥がかすめる。いつもより深くなった眉間の皺がうごめくのを、あまりに遅く振り回された手を、小鳥は冷静に見下ろしていた。夫人は金切り声を出しかけてやめる。小鳥はあわれんで、風切り羽を広げつつ棚の上にとまった。小鳥の視界の端で、携帯端末が光る。夫の声がして、小鳥は返事をした。どこにとまったか見失っていた夫人が、猫撫で声で近づいてくる。小鳥は飛び立ち、携帯端末の応答ボタンを素早く押した。夫は、愛する小鳥がビデオ通話に出たことに気を良くして、我知らず優しい声を出した。出先でちょっとした失敗をして、気分転換に妻に頼まれていた品物を購入して、その報告をしたわけだが、妻は一向に通話に出ない。そういえば小鳥はどうして電話に出たのだろう。夫は急に、気がついた。カゴから外に出されているではないか。どうしてだ。妻は不在なのか。小鳥はずいぶん賢いから、自分でカゴの鍵を開けることができる。けれど事故防止のため、普段は夫以外が開けられないよう、人間以外には開けられないようにしてあったはずだった。呼びかける声に、やっと妻の返事が返る。ごめんなさい、掃除をしようときたら、逃してしまったの。小鳥は笑うように軽やかに鳴いて、妻の手をかいくぐって携帯端末の視界から消えた。夫はとりあえず、妻にそのまま待つように頼んで、今日の仕事の早退の手続きを思案するのだった。

お題的なもの。600〜2000字で視点人物を切り替える。

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