雨女王の上前は
梢が窓ばかり叩く。
外は明るく晴れているのに、風が強い。嵐がくるのだ。
本を閉じて、外へ出る。
早く戻っておいで、と叫ぶと、草原のはるか先の空に、ぽつりとシミのようなものがあらわれた。
さっきよりも大きく梢が揺れて、窓を叩く。少し剪定した方が良いかもしれない。
雨音が達するよりも早く、黒雲が来るよりも先に、大きく風をはらんだ翼を振り下ろして、牛三頭分はゆうにある竜が降りてくる。
「よく遊んだ?」
「よく遊んだ!」
竜は幼げな声で応える。
梢がまた窓を叩く。胸が騒ぐ。
「早く帰ってきてくれてよかったよ。ひどい雨になりそうだ」
と言えば、竜は、
「そのくらいへっちゃらだよ。雨なんて、大したことないもん」
「大したことはあるよ。君が落ちてきた日のこと、忘れたの? 雷に当たって落ちたんでしょう」
「そうだったっけ」
あの日落ちてきた竜がへし折った梢は、ずいぶんと伸びて、青々と茂っている。
黒々とした空から、耐えきれないように、雨粒が落ちる。
「さあ、女王様の涙だよ。早く屋内に入りなさい」
「はあーい」
雨女王の昔話を口ずさみながら、梢が揺れる下を通り抜ける。
木々が遮ってくれるから、雲の上に住まう御方からは見えないだろう。
竜は雨女王の落とし子。すっかり本人は忘れてしまっているようだけれど、本当は梢の下に庇われるものではない。
昔話がどれほど信憑性があるものかは知らないが。
さて、と扉を閉めてかんぬきもかける。
雨女王に従う竜は、他のまちを雨で沈めたこともあるらしいから、このまま穏やかに朽ちてほしいものだ。
梢は窓を叩くけれど、窓は、未だ破られないままに。
お題的なアレ。700〜2000字、語りを短く、エコーや繰り返し。




