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買える命
命を言い値で買った。
「こんなもんを買うなんて、酔狂だね」
店員は言うが、荒野に張り付いて暮らした自分には、小さな命さえ貴重でならない。
薄い鉢の中で萎れかけた花は、水筒の真水を貰って顔をあげる。
「どうして? 私、貴方達には食べられない。可愛いと言ってくれた人ももういない。手ばかりかかるから、種子も殆ど捨てられてしまったのに」
荒野では育たないだろう、花弁は柔らかすぎる、茎は細すぎる。食べても美味くも滋養もない。
「それでもね、君が必要だと思ったから」
多様すぎる生物がいた、かつての星を知っている。わずかな種しか残らなくても、いつか楽園を。
必要、と呟いて、花は小さな歌を歌った。
第八十六回のお題「買う」
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