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祈りの果て
私のために、祈ってくれる?
花嫁が言うので、祈るしかない。皆の前で。攫うこともできずに。
豪奢な刺繍の衣装姿で、花嫁は荒野を歩いていく。
大鷲の生贄が、帰ってきたことはない。その代わり、獣や植物が豊作にならないこともなかった。
この祈りは誰のためのものか。
過日、土地神は侵略され殺された。新たに生まれた神は幼く、豊作も約束できない。
家を抜け出し、先回りして荒野の大鷲の元へ向かう。
「土地神、これは約束なのだよ」
憐れむ声で大鷲は告げる。
「人の祈りが、約束を作り出した。私が食らえば幸いがあると、人が運命を作ったのだ」
私達は運命を断れない。
祈りの果て、豊作が結実する。
第八十三回のお題「祈る」
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