きんのふる
初回掲載日:2017年 08月30日 20時16分
銀月の一族番外編の移動。
真っ暗だ。体は宙に浮かんでいる。身じろぎすると、ふうわ、ふうわ、手足がゆっくりと空気を混ぜた。どこも、何にも接していない。
胴体にも、掴まれている感覚はない。
(どうしよう)
こわい、という気持ちが一瞬だけ胸をかすめる。すぐに思い直した。こういうのは、思い切りが大切だ。怖くない。
ざわざわした、どこか遠くからの気配が、さらに遠ざかる。
ふいに足元が光り始めた。まるで水脈がふと浮かぶように、さらさらと、金色に光る砂のようなものが流れ始める。
(きらきらしてる)
自分の輪郭が闇の中に浮かび上がる。どこも異常は見当たらない。ほっとする。
日向の中の、シズクの唸りも今は聞こえない。悪いものではないのだろう。あるいは。警告できないほど離れているのか。
(離れたりするのかな?)
キセと裄夜は、ときどき別行動をしている。シズクがそうなることは、あまり考えたことがなかった。
(分からない)
さあ、さあ、と砂の流れる音が聞こえる。
徐々に広がり、黄金の川になり、河になった。
「どこへ行くんだろう」
「行くとは限らない」
澄んだ声。返答があったことに驚いて、日向はつまづいた。何に? 宙に浮いているのに……。
「わっ、えっ?」
「行かず戻ることもある」
「戻る? あの金色は、どこかに戻るの?」
誰なのか、問わなくても知っているような気がした。だから相手の言葉に質問を返す。質問によっては対価を必要とするだろうが、話の流れ上、相手はこの雑談に応じてくれる気がする。
「始まりへ」
果たして、対価は求められず、相手はそれだけを回答する。
「始まりって、生まれたところ?」
「生まれた、というのは語弊がある」
声はすぐ近くとも、遠くともとれる微妙な空疎感で届いた。
「貴方はあの金色?」
「そうであるとも言える。ないともいえない」
「あるんだ。綺麗だね。命みたい」
「その、置き土産」
「命の?」
「待って玉竜」
花開くごとく、何かのわらう、ひらけた気配がする。
「何してるの中津川さん」
裄夜が声を掛けてくる。
日向は瞬きした。背中が痛い。縁側の木の板に寝転がっていたせいで、背中や肩がこわばっていた。
「今ね、」
見たもののことを話そうとして、やめる。言葉に乗らなくて霧散しそうな夢だった。
夢、ということにした。
 




