149/232
思い出ひとつ
おやつをもらった。餌付けみたいだが、これが滅法美味いのだ。
「これ何?」
頬張りすぎて息ができない。相手は笑って、
「カステラ」
お茶を差し出す。
それからどんな材料でできているか、作り方を教えてくれる。
近所の庭木の隙間から、いい匂いがしたので覗き込んでいたら、手招きされたのが縁だ。
毛深く、牙の鋭いひとだけれど、料理はどれも美味しい。
「いつか私も料理上手な獣になる?」
聞くと困り顔で、ならなくても遊びにおいでと答えてくれる。
宝物のようなキラキラした時間。
以前皆が突然獣になり、自分だけ変わらなかった。楽しみがあれば、思い詰めずに生きられる。
心が獣にならないように。
第八十回のお題「宝」
#Twitter300字ss @Tw300ss




