失われない波と、海/消えない波を追いかけて
失われない波と、海
防波堤は波を抑える。堤上に立ち、見習い魔法使いは海を見下ろす。
目視では、堤はただの石積みだ。一部朽ち、丸みを帯びている。
海は、黒々として重い。
白波は殆どなく、のっぺりと、しかし確実に防波堤を舐め、削っていく。
魔法は、生き物から採れる。様々な生き物の、固有のリズムがそれだ。鼓動。歩き方。人魚や鳥の得意な歌。
見習いは杖に灯を灯す。
海は黒々と広い。
海に飲まれ溶けた人々を、思う。まだ意識はあるだろうか。
見習いは、堤の守護が主な仕事だ。偉い先生達は必死に計算し、海を元に戻そうと試みている。
あれは呪い。人魚姫の悲しみは癒されず、涙は今も人や魚の境を曖昧に飲み込む。
(ゆにこーど298文字)
※
消えない波を追いかけて
専用の道具で、空中に模様を描く。
描かれた金魚は、ぴょんとはねて、楽しげに宙を泳いでいった。
勿論タネも仕掛けもある。カメラと一緒に仕掛けられたシステムが、道具の動きを感知して、描画をカタチとして投影するのだ。カメラ設備のエリア外に出ると、すぐに消える。
祖母の家の前でこうして遊んでいたら、アナログだと笑われた。屋内でもっと簡単に空間を展開できるのに、と。でも、それって他の人が作ったセカイだから。下手でも、自分で作ってみたい。
ゆらり、波を描く。鯨が泳いで、壁に当たって消えていく。
胸にも波紋。こんなことして何になるの、と、楽しい、が、ぶつかる。
消えない波を、まだ追いかける。
(ゆにこーど299文字)
第七十八回のお題「波」
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