こいのぼり
公園で待ち合わせたが、相手から少し遅れると連絡があった。暇なので、噴水を離れて池の周りを回ってみる。
念のため持参した雨傘は、すっかり強くなった日差しのために使われていた。ワンピースで正解だった、思った以上に暑い。初夏の木々はじわじわと緑の色を濃くしている。
向こうに、売店があったはずだ。
急ぎ足になると、余計に暑い。
目が涼を求めて池に向かう。
流れる様子もなく、沈んだ色だ。
その、草緑によどんだ池を、鮮やかな色彩が横切った。
水面の下に何かいる。
(鯉、かな?)
鯉にしては、大きい気もするが。
水鳥たちはすいすいと、気のない様子で通り過ぎる。
(あっ、また通った)
赤と白と金色の模様は、確かに鯉だ。それにしては、マグロより大きい。
写真でも撮ろうと、携帯端末を掲げたら、ぱしゃん! と池の水が跳ねあがった。
ほうほう。ほう。
どうしてどうして、この時分に雨も降らさで、登れようものですか。
好々爺、といった笑い声と、話し声が交わされる。
ぬっと、水面を割って、何かが出てきた。鯉のぼりの、大きな布地に似ている。それが、たちまち降り出した大雨に打たれて、歓声をあげる。
よう、よう。
えい、えい。
鯉は一つではない。いくつか、続けざまに伸びて、雨粒を伝って空へ登り始めた。
「すごーい雨」
「狐の嫁入りにしては、すごかったねえ」
急に人の声が耳に入った。
辺りは明るく、天上の雲からまだきらきらと雨粒が降っていた。
「それはおおかた、龍にでもなりに行くんだろう」
遅れてきた相手は、話を聞いて、こともなげにそう返した。
「写真も撮れなかったって? いいじゃないか。向こう側のものを、あまりこちらに引き寄せて、縁で縛ってやらなくても」
「でも、信じてもらえてない気がして」
「信じるよ」
さらりと、気負いなく言われると、急に、雨に降られたワンピースが気になってきた。
池からは、まだ居残っているらしい鯉がいくつか、色を覗かせたが、またすぐに潜って、見えなくなってしまった。
銀月を書こうとしてなかなか書けないので、番外編でにじりよる作戦。あるかもしれない未来。日向と須条で。




