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柚子の旅
「本当にやるんだね?」
問われるが、試作段階の丸い球に入り込んで、柚子は頷く。
「並行世界にトリップして、柚子のほんとの両親を探すの」
両親はある日、柚子の目の前でスッと消えた。話しながら、一枚布を被せるように。並行世界に落っこちたというのが、隣家の、学者志望のお兄さんの考えだ。
「また明日、ボタンを押して球をこっちに戻すからね」
存在の揺らぐ、向こうの素材を含んだ球は、お兄さんが昔向こうから持ち込んだものだ。向こうに帰るために開発を試みて、まだ一日しか移動できないらしい。一日だけ向こうに行けるが、球も自分もすぐに戻されるのだ。初めからこちらに住むべき存在だったように。しかしその動きも不安定だから、今回は、戻るためにボタンが押される予定である。
「柚子ちゃん、また明日」
「うん、行ってきます!」
柚子の旅が始まった。
柚子、トリップ、また明日
#ノベルちゃん三題




