ブランド店に飾られて/出立の日
ブランド店に飾られて
お目が高い、それは千疋皮です。希少な皮を用いたコートです。
そのドレスは、新雪のごとき美しさの姫が内職で製作したものです。
お足元のガラスの靴は、サイズが各種揃っています。
反物は、鶴の羽製品で、防水加工済み。恩返しシリーズの中ではイチ押しです。
購入希望ではない? 商品の売り込みでしたか。
おや、スパンコールが美しいバッグですね。失恋人魚の鱗は大抵消えますが、消えぬうちに特殊加工を施した、と。貴方がスカウトすると、新たな恋で実体を取り戻す人魚が多い、成程。
偶然ウェディングドレスの所望がありましてね。そうした加工も可能で? では詳しい契約を。結局人間が一番強かですな、王子様。
※
出立の日
目一杯、着飾った。
村の皆が刺繍したドレスは、細かなレース編みの縁取りも美しい。
村で一番美しい娘は、勉学の道具や知恵を隠し持ち、ドレスの内側に針も糸も刃物も、何もかも収納した。
「竜への生贄じゃないんだから大丈夫」
仲間に謝られるたび、そう答える。
竜帝と呼ばれる荒くれ者は、先年、大陸を平定した。本人の意思は不明だが、部下達が、各地から人材を招集している。様々な条件の、様々な人を。一つの村から必ず一人以上を召し上げると。
だから、本当は出世の機会だ。
学者ではなく、高官の花嫁役の枠なのが嫌なだけで。
絶対に学者枠に移行する。笑顔の下で計算して、娘は美しい衣装で出立した。
第七十回のお題「服」
#Twitter300字ss @Tw300ss




