豆の話/私を選んでくださいね
豆の話
公園内でバザールが開催されていた。
カゴ盛りの野菜店、移動式サンドイッチ店などをひやかして歩く。
ある一角では、コーヒー豆の瓶詰めを飾っていた。
よく見れば、豆は一つずつ色が違う。焦げ茶、薄緑、黄、真っ黒。
豆はつぶらな目で、こちらを見上げる。小さな口が一斉に開く。
選んでー! 選んで選んで!
店主が、試飲を一杯、紙コップにいれてくれる。うまい。香りは青空と、吹き抜ける風にぴったりだ。
豆を買いたいが、彼らと目が合って、何となく選べない。
店主おすすめブレンドを頼んで、ひいてもらった。ばいばーい、美味しいうちに飲んでねー。豆は達観しているのか、そんな声をあげて、粉になった。
※
私を選んでくださいね
「私を選んで」
そうすれば外に出られる。体中に石を生やした娘が言う。牢に繋がれた男には、理由が分からない。
訝しみつつ、男は翌朝、石と花のどちらが欲しいか問われ、石と答えた。花の方が、暗い牢では慰めだろうに。
結局、花のように美しい領主の娘に懸想したと誤解されたため、牢に繋がれたらしい。
石の娘と共に、城を放逐された。
娘は別れ際宝石を寄越した。
「私は貴方を利用しました。話をでっちあげて」
牢に繋ぐための疑惑から、娘の罠か。許されないことだが、なぜか娘の行く先が気がかりだ。
「安住するまで、見守らせてくれ」
「律儀で変わった方ね」
計算の内か、石の娘は、選んだ男にそっと笑った。
第六十九回のお題「選ぶ」
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