オブラートに包む/ちょっとそこらのネコカフェへ
オブラートに包む
オブラートに包んでしまった。何しろ急に出たのだ。隠していた本音が。
会社の給湯室で、コーヒーをいれていたら、湯気が顎に触れた途端、口からこぼれた。
慌てて、その辺の救護用品の箱からオブラートを取り出した。
丁寧に包むと、手の中でかさかさ、本音が動いているのを感じる。
普段は、自宅で専用のハーブティーを飲んでやっと出るくらい、珍しい本音。今は何かを呟いている。
包んで包んで、何枚もオブラートを重ねて、ポケットに入れる。
どうか帰宅するまで保ってほしい。
願いも虚しく、オブラートはすぐに弾けとんだ。
「帰りたい!」
数人の同僚が聞いてしまった。
「今日は早番にして、帰りなよ」
※
ちょっとそこらのネコカフェへ
むしゃくしゃしたので、ネコカフェに寄った。かろんとドアベルが鳴ると、大型のネコ科動物が駆け寄ってくる。
「久しぶりだね」
バリトンの美しい声が、楽しげに喉を鳴らす。
「店長が来ているよ」
急いでワンオーダーし、飲み物を楽しむのもそこそこに、奥へ向かう。
部屋一杯の大きなネコが、真っ白な長い体毛に多数の人間をはべらせている。
ネコカフェだが、従業員が触ってほしいときだけ触れていい。
許可を得て、もっふりとした店長に包まれると、まるで宇宙に浮かんでいるみたいだ。
あちこちで、深いため息と健やかな寝息が聞こえる。店長のしっぽが寄ってくる。ゴロゴロ音のオマケ付きでよく眠れた。
第六十一回のお題「包む」#Twitter300字ss @Tw300ss
 




