第2話:教会からの刺客・プロローグ
『仁は69年、蜂の月。
魔王が蘇り、世界は滅亡する。
破滅を止めることが出来るのは、この世界の理を外れし勇者のみ』
予言の時である蜂の月まで、残された時間はもう少ない。
だというのに、世間では我々、刻神教会は思い込みの激しい異常者集団と思われている。
だれも世界の危機に気が付いていない。
未来を救おうとしていない。
滅亡の未来から世界を救えるのは、刻神教会だけだ。
教祖様だけなのだ。
教祖様のお告げに間違いなどない。
私を救ってくれたあの日のように、教祖様だけがこの世界をお救いになられるのだ。
そのために、私は、私の成すべき事を成す。教祖様のお告げの通りに、使命を果たすのだ。
そのために私はこの隣町へとやってきた。
この街の温泉宿の一つに、王国が認めたという勇者の一人がいる。
王室お抱えのペテン師の口車に乗せられた、何の根拠もないお告げを信じている愚かな民たちの希望を騙る下劣な者に裁きを下すために。
そして真実を知らしめるのだ。
真に大陸の民が頼るべきは偽物の勇者などではない、我らが教祖様ただ一人なのだと。
ここは大陸の中心である王国からは遠く離れた田舎の街だが、名のある温泉宿が並ぶ観光地としてはそこそこ栄えている。
街を行きかう人々の表情は活気に溢れていて、迫る滅亡の足音にも気が付かず、楽し気に笑う者たちばかりだ。
あぁ、なんという愚かさだろう!
救いようのない愚か者たちめ!
だが安心するが良い。
そんな愚民共にも教祖様は寛大なる御心で救いの手を差し伸べて下さるのだ。
共に滅亡の未来から救って下さるのだ。
「ここが、そうか・・・・・・」
目的地にたどり着くと、目の前にはこの街でも一番と言って良い大きな温泉宿に辿りついた。
教祖様の書いてくれた手書きの地図の通りで、迷う事もなかった。
さすが教祖様だ。
豊かな絵心も持ち合わせていらっしゃる。
「救世主を気取る偽物の勇者め・・・・・・覚悟!」
偽物とはいえ相手は王国に勇者と認められるほどの実力者である事に変わりはない。
それでも、使命は必ず果たして見せる。
例え、この命と引き換えにしてでも。
懐に仕舞った短刀の持ち手には、教祖様が直々に掘り入れて下さったまじないの文字が刻まれている。
その文字だけでも、私に無限に沸き立つ勇気を与えてくれる。
私はその感触を指先で確かめ直し、決意を新たにして宿の暖簾を潜った。
その先に、簀巻きにされた一人の男が転がっていた。




