第1話:女湯、それは異世界・エピローグ
「私の名前はルーチス。この子は妹のミルアと言います」
「ミルアです!」
一連の騒動を要約するとこうだ。
ルーチスは謎の組織に妹のルミアを攫われ、人質とされた。
そして、妹を守るために組織の言いなりとなり、フィーレを襲撃した。
女将の筋肉の戦闘能力は組織とやらも知っていたのだろう。
最初に襲ってきた黒タイツに細工をし、女将を転移させることで戦闘から強制的に離脱させようとしたらしい。
「アタシだったからなんとかなったが、かなり精巧に作られた魔術だったよ。あの転移術は」
転移と同時に、女将の手足は三重に掛けられた鋼鉄の枷で封じられたのだという。
魔法のことはわからないが、フィーレもかなり驚いていたし、かなり高度な技術なのだろう。
だが、それは一瞬にして砕かれ、牢も破られ、見張り役の魔術師はボコボコにされた。
転移先にはかなりの数の魔術師がいたらしいが、とりあえずそれを全員ボコボコにし、その内の一人に無理やり逆転移をさせて、今に至る。
というワケだ。
(やっぱ化物じゃねぇか女将!)
「申し訳ありません! 脅されていたとはいえ、大事な湯場を……!」
確かに浴場は半壊状態だ。
とてもではないが、修復するまではまともに営業できないだろう。
実際に破壊したのは全部フィーレなんだけどな。
「今は手持ちがありませんが、今回出した損失、必ずお返し致します!」
女幹部は深々と頭を下げる。
この世界にその文化があるのかは不明だが、格好はほぼ土下座だ。
女将は怒るでもなく、ルーチスに尋ねた。
「ところで、アンタは今まで組織で暮らしてたらしいね」
「……はい。家は、妹を攫われた時にもう焼き払われましたので」
幼い妹を人質にとり、帰る家を焼き払ってまで手駒を作る。
さすがに気分が悪くなる話だった。
しかもこんな可愛い幼女をツライめに合わせるなんて絶対に許せない。
幼女可愛い。
「手持ちもなし、かい。……だったら、この弁償代、体で払ってもらうとしようかね」
その時、脱衣所に電撃走る。
体で、だと……?
それはあれか?
あれなのか!?
「わかりました。私は何でもします。ですが妹は……」
「ちょ、ちょっとお母さん! それはさすがに……」
ルーチスは覚悟を決めたて答えたが、さすがのフィーレも今回ばかりは動揺して割って入る。
ルミアはよく分かってないがなぜかドヤ顔だ。
「決まりだ! 二人共、ウチで働きな! もちろん住み込みでね!」
女将は豪快にそう言い放った。
「へ?」
「は?」
「え?」
俺とフィーレとルーチス、三人の声がいい感じにハモった。
「ちょうど、住み込みで働けるヤツを探してたところさ。湯の修理は急がなきゃいけないしねぇ」
要するに、二人まとめて面倒を見るということだった。
「し、しかし、これ以上ご迷惑をかけるわけには……」
負い目を感じているルーチスは申し訳無さそうにしていたが、もう女将の中では答えがでていた。
「おや? 何でもすると言ったのは誰だったかい? 私にはアンタの声に聞こえたがね」
この二人を放っておけないのだ。
「……ありがとうございます!!」
「フン。言っておくけど、私はお母さんみたいに甘くないから。ウチで働く以上はビシバシしごいてやるんだから、二人とも覚悟しておきなさいよねっ!」
厳しいことを言いながら、なんだかんだでフィーレも嬉しそうだった。
ツンデレなんだな。
ルミアが「はーい!」と返事しながらフィーレの胸に飛び込んでいた。
うらやましい!
「こ、こらルミア! やめなさい!」
「アッハッハ! 子供は元気が一番だよ!」
俺もフィーレの胸に飛び込もうとしたが簀巻きにされた。
まだ飛び込んでないのに?
こうして女将の筋肉によって騒動は無事に解決した。
一件落着である。
「ちょっと待ちなさいよ、変態!」
というわけで安心できたところで今度こそココから去ろうと外へ出たのだが、俺はまたフィーレに捕まった。
「…………なんだ?」
見れば、フィーレがうつむきながらモジモジしていた。
なんかエロい。
綺麗な金色の髪をほっそりとした指先でクルクルいじっている。
「さっきは、その、助かったわ。……ありがと」
一瞬だけ目を合わせ、顔を真赤にしてそれだけ言うと、再びうつむいて沈黙する。
前髪に隠れて表情はあまり見えないが、多分照れているのだろう。
「お、おう」
俺はなんとか返事をした。
やばい。
可愛い。
おもわず俺までドギマギしてしまう。
「そ、それだけだから!! この変態!!」
そう言ってフィーレは走り去った。
「えぇ-……」
彼女は必ず罵倒を含まないと男とは会話ができない病気か何かなのだろうか。
「しかし……」
まったく不思議だ。
そう、不思議なのだ。
「お礼を言うために、なぜ縛る……?」
俺はまた簀巻になって地面に転がった。
せっかくルーチスがほどいてくれたのに。
脱衣室から適当に外に出たが、どうやらそこは裏口だったらしい。
簀巻のまま転がると、なにやら人だかりに遭遇した。
大浴場での衝撃音は、当然のごとく周囲まで響いており、浴場の入り口に人だかりができていたのだ。
女将が表に出て来て、謎の人物による襲撃を受けたのだと状況を説明すると、ボコボコにした幹部らしき男を実行犯として突き出していた。
まぁ、犯人としては間違いじゃないからな。
状況がわかって安心したのか満足したのか、次第に人だかりも散っていき、最後には簀巻のままの俺だけが残る。
「よっと」
俺は器用にバウンドして起き上がった。
もちろん簀巻のままである。
人が居なくなるのを待っていたのだ。
人前でやると気味悪がられそうだからな。
「さーて、それじゃあ行ってみますか」
まず目指すのは隣町の教会。
元の世界へ戻るため。
そして俺のやるべき事を成すために。
「まってろよ、アイミ」
この世界での俺の冒険は今、始まったばかりだ。




