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第46話・フィリピン捜査

 「杏奈、寒くないか?喉渇いて無いか?眠くなったら言えよ。」

「そんなに心配しなくても、大丈夫よ。」


私は今、フィリピンへ向かう飛行機に、拓海と八橋さんの三人で乗っている。温品殺害についての捜査で、現地警察から話を聞く為だ。

そして、拓海と私のやり取りを聞いていた八橋さんが、呆れたように溜め息をついた。


「鶴崎……バレた途端に、キャラ変わりすぎだろ……」

「そうですか?」

「誰がどう見ても、過保護だろ……」

「仕方ないじゃないですか。杏奈相手だし。」

「付き合いがバレたら配置替えってのも、分かる気がするよ……」


はは……八橋さん、すみません……体調不良に気付かれてから、過保護気味なのです……


「まっ、俺は英語が話せないから、聞き込みは二人が中心で頼むよ。」

「タガログ語と英語に精通している通訳も手配していますから、八橋さんも、安心して下さい。」

「タガログ……?そ、そう……」


八橋さん、タガログ語はフィリピンの言葉ですよ……

敢えて八橋さんの名誉の為に、突っ込まないでおこう……




 それから暫くして、南国フィリピンのマニラへ到着した。まずはホテルへ向かってチェックインし、お昼ご飯を頂く為に食堂へ入る。二人は春巻や焼きそばみたいな食べ物を、私は野菜と鶏肉が煮込まれたスープを注文した。


「杏奈ちゃん、それだけ?」


拓海は心配顔を私に向け、八橋さんは驚いたように尋ねてくる。

マズい……今度は二人揃って過保護になりそう……


「だ、大丈夫です!思ったよりも、機内食が多くて!」

「でも、機内食も残していたよね?」

「暑さに体が慣れていないだけですぅ~♪」

「そう?熱中症には気を付けて、水分は多めにね。」

「は~い♪後で、お水を買いに行って来ますね!」


きっと、疲れが積み重なっているのね……この事件が解決したら、2~3日位寝て過ごそうかしら……




 食堂を出て、現地警察と合流する。捜査員はほとんど英語が話せるようで、話はスムーズに出来た。

日本語が話せる通訳さんは、八橋さん専任で動いてもらう事になった。


『ここが、殺害現場だよ。』


まずは犯行現場へ足を運ぶ。賑やかなマニラ市内から少し離れた地域だ。

舗装していない砂利道が続き、車が通る度に砂埃が舞っている。現地警察官が指さしながら、犯行当時の様子を説明してくれた。


『時刻は22時過ぎ、タクシーでマニラ市内のホテルへ戻る途中、後ろからやって来たバイクに乗った二人組に銃で撃たれたんだ。即死だったよ。』

『二人組はまだ逃走中ですか?フィリピン人ですか?それとも外国人ですか?』

『二人ともフィリピン人で、まだ逃走中だ。この辺りは強盗もいるけど、今回は、殺す事が目的だ。』

『そう断言出来る根拠は?』

『タクシーの運転手が、金品の要求無く、いきなり撃ってきたと言っている。』

『温品は何処からの帰りですか?』

『タクシー運転手の話では、パブに行っていたらしい。一緒に誰かと飲んでいたみたいだが、相手は判っていないんだよ。パブの店員も初めて見る客だと言っている。』


不況とはいえ、世界的に見れば、日本はお金持ちの部類だ。金品目的の強盗なら、たまたま狙われたという事も考えられる。

だけど、殺害目的なら話は違う……確実に温品を狙ったという事だ。


『温品がフィリピンへ入国してからの、足取りは分かりますか?』

『最初はセブ島に二週間、その後はマニラ市内のホテルだ。署に戻ったら、滞在場所の名前を教えるよ。』

『ありがとうございます。』




 夜になり、ホテルへ戻った後、八橋さんの部屋でミーティングをする。


「さっき、日本へは温品を殺害目的で狙った犯行だと、報告しておいたよ。後、温品の周りの人間にフィリピンへの渡航歴が無いかも、調べるようお願いした。その……潮田社長の家族も含めて……」


八橋さんは説明しながら、チラッと私へ目線を向けた。


まぁ、そうよね……今、一番温品を恨んでいるのは、殺された潮田社長のご家族だと思うし……


「分かりましたぁ。明日はどうしますか?」

「明日からは最初に滞在したセブ島のホテルへ行こうかと思っているよ。数日泊まるかもしれないから、準備をしておいてくれる?」

「了解で~す。」

「鶴崎はどうする?マニラに残るか?セブ島へ行くか?」


八橋さんに話を振られた拓海は、口元に手を当てて考え込んでいる。マニラ警察と一緒に殺人の情報を集めるか、私達と一緒にセブ島で捜査するか、迷っているのだろう。


そんな様子を見た八橋さんは、苦笑いを浮かべた。


「おいおい、俺はそんなに信用無いか?杏奈ちゃんには手を出さないって。」

「八橋さんは姑息な手を使いませんから、その点は信用しています。ですが……」

「何だ?」

「いえ……何でも無いです。僕はマニラに残りますね。その方が効率良いですから。」

「分かった。なら今日は解散して、明日に備えよう。」

「はい。」


八橋さんの部屋を出て、自分の部屋へ戻る。すると、拓海も一緒に部屋へ入ってきた。


「ちょっ!拓海!仕事で来ているのよ!」


焦っていると、拓海が黒い笑みを浮かべながら、距離を縮めてくる。


「あれ?ちょっとだけ充電しようかと思っただけだけど、杏奈は何か期待した?」

「す、する訳無いじゃない!」

「はは!明日から暫く会えないかもしれないだろ?」


そう言って私を抱き寄せて、軽く触れるだけのキスを落としてきた。


「もうっ……」


拓海の胸に手を当てて、少しだけ身体を離す。


「いいな。その、『もうっ』って言うの。甘い囁きに聞こえるよ。」

「拓海の脳内変換能力は、都合よく出来ているのね……」


そうは言っても、嫌がっていない自覚はある。

ただ、旅行ではなく捜査で来ているので、線引きはしておきたい。


「心配しなくても、これ以上は何もしないよ。止まらなくなりそうだしな。」

「そうしてくれると助かるわ。」


拓海は再び腕の中に私を閉じ込めて、軽く頭を撫で始めた。


「……無理はするなよ。体調が万全じゃぁ無いんだから。」

「分かっているわ。」

「水分はしっかり摂れよ。」

「うん……」


こうしているだけでも、疲れが癒される気がする……


黙って、拓海の背中に腕を回して、暫く腕の中の温もりに身を任せた。




 翌日、八橋さんと二人でセブ島へ向かい、温品が滞在していた三ツ星ホテルへと足を運んだ。エントランスロビーも解放感と高級感が溢れている。


随分と贅沢をしていたのね……フィリピンへ高飛びしてダンマリを決め込めば、勝手に保険金が入ると思ったのかしら……


事情は電話連絡をしていたので、すぐにホテルフロントスタッフから話を聞く事が出来た。


『そのお客様でしたら、最初は四週間の滞在予定でしたが、二週間程でチェックアウトされました。』

『えっ?予定を繰り上げたのですか?』

『はい。』

『温品の滞在は一人でしたか?』

『その通りです。』


通訳さんはセブ島へは連れて来なかったので、時々、八橋さんに通訳をしながら、聞き込みを続けていく。


『いつも何処かへ出掛けるなど、していましたか?』

『いいえ、お食事もほとんど当ホテルで召し上がっております。』

『ほとんどと言う事は、外食の日もあったという事ですか?』

『そうですね……朝食と昼食は毎回、当ホテルです。ディナーは……時々お出ししておりませんね。』


フロントスタッフは記録簿を見ながら、教えてくれた。


『外で食べていると?』

『恐らくそうかと思います。』

『誰かを連れて帰る事は、ありましたか?』

『フロントへ来られる時は、いつもお一人でした。』

『何時頃にホテルへ戻ってきているか、分かりますか?』

『いえ、そこまでは……』


続いて、エントランス外側で待機しているベルボーイにも、温品の写真を見せながら尋ねてみる。


『最近、この日本人客が出入りしていたかと思いますが、覚えていらっしゃいますか?』

『お一人で来られていた方ですね?珍しいので、何となくは覚えています。』

『いつも一人で外出していましたか?』

『う~ん……ほとんどお一人だったと思いますが、帰りはタクシーで誰かが送ってくる事もありましたよ。』

『本当ですか?』


やった!温品を殺した犯人の手がかりになるかも♪


『エントランス外側に防犯カメラがありますので、そちらをご覧になりますか?』

『お願いします!』


それから、温品が夕食をホテルで食べていない日の夜に絞り、防犯カメラの映像をチェックする。夕食を外で済ましてきたのは6日間、しかもマニラへ移動する前がほとんどだ。


「八橋さん、一日目は一人で戻って来ました。」


戻ってきたのを確認して、次のビデオをチェックする。


「二日目も一人っぽいな……」

「三日目も同乗者無しですねぇ……」


そして、八橋さんが四日目をチェックしていた時だ。


「杏奈ちゃん!これ見て!タクシーに向かって、温品が手を挙げているよ!誰かに挨拶してるかも!」

「巻き戻して見せて下さいっ!」


八橋さんが操作して、タクシーがエントランスへ入ってくるところから二人で見入る。


「……本当ですね!誰かに挨拶していますね!」

「やっぱそうだよね!でも、相手の顔は分からないなぁ……」

「まだ他の日に映っている可能性ありますよ♪」

「だね!よしっ!頑張るか!」


気合いを入れ直して五日目と六日目もチェックしたけど、相手の顔は映っていなかった。


「はぁ……手がかりになると思ったのにな……」


八橋さんが盛大な溜め息をつきながら、ボソッと呟く。


そうよね……目の前まで手掛かりの人物が見えているのに、顔が分からないなんて……


ん?温品は、わざわざ滞在期間を繰り上げたのよね?もしかしたら、その人に誘われて一緒にマニラへ行ったのかも!そうだとすれば、ホテルまで迎えに来ている可能性が!


「八橋さん!チェックアウトの日です!」


すぐにチェックアウトの日が映っているビデオを取り出し、再生ボタンを押す。他の宿泊客もチェックアウトする時間帯だから、見逃さないよう、画面に見入った。


すると、エントランスに乗り付けたタクシーから降りたフィリピン人と挨拶をする温品の姿が映されている。


二人でタクシーの後部座席へ乗り込んだという事は、運転手では無い!バッチリと顔も映っているじゃない!


「杏奈ちゃん!ビンゴ!」

「すぐにこの人物の顔をプリントアウトして貰いましょう♪」


プリントアウトした写真を持って、再びベルボーイのところへ行く。聞き込みの結果、夜にも送ってきていた人物と同一という証言を得られた。


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