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第42話・VSシージャック犯

 お手洗いから席へ戻ってきた拓海に、スマホの画面をチラッと見せながら、にっこりと微笑む。


「ねぇ、デッキへ行って、ゆっくりしない♪」


何処にシージャック犯が潜んでいるか判らない。お嬢様笑顔で外へ誘うと、何かを悟った拓海も爽やかな仮面笑顔を返してきた。


「外は寒いから、ちゃんとコートを着て行こうな♪」

「ええ、もちろんよ♪」


ただのイチャイチャカップルに見えるよう装い、話し声を聞かれないよう外へ行く。


デッキへ出て、拓海はすぐに柳沢さんから事情を聞き始め、私は然り気無く回りに目を配った。

フェリーはもうすぐマリンゲートブリッジを潜り抜けるところだ。


あれ?このフェリーは、湾内周遊の筈よね?この橋を抜けたら外海に出てしまう……

もしかして!


「拓海!航路がおかしいわ!操舵室はすでに乗っ取られているかも!」

「本当か?!」


拓海はすぐに柳沢さんへ報告をしている。


「……という訳で、すでに操舵室が……ええ……あれ?もしもし?もしも~し!」


拓海は溜め息をつきながら、スマホをポケットへ突っ込んだ。


「どうしたの?」

「通話が切れた。圏外だろう。ただ、こっちの状況は伝えられたから、すぐに海上警察と海上保安庁が駆けつける筈だ。」


──「プツン……ガガッ……」


急に船内に流れていた音楽が止まり、スピーカーから雑音が聞こえ始めた。


「何かしら……」


その時、雑音と共に聞こえてきた音声に、耳を疑った。


──「ガガッ……贅沢の限りを尽くし偉大な自然を破壊する愚か者たちよ……この船は、我々アクアマリンエイドが乗っ取った……」


思わず拓海と顔を見合わせる。


──「今から10分以内に全員、レストランへ集まれ。集まっていない者は、見つけ次第、大自然の海と同化してもらう……ガガッ……」


シージャック決定ね……

アクアマリンエイドって、ニューヨークにいる時、ニュースで聞いた事がある……確か、海を汚すと判断すれば、破壊や攻撃を平気で仕掛けてくる、過激な思想を持つ海外の団体……


「目的は何かしら……破壊目当てなら、もっと大きな船を狙いそうだけど……それに、自分達も危険よね?」

「最近は勢力拡大の為に人集めをしたり、寄付を募っていたらしいから……」

「身代金目的?」

「分からないけど、すでに警察が動いている。まずは……」

「乗客の安全確保ね……」




 二人でレストランへ戻る廊下を進んでいくと、ピタッと拓海が止まり、小声で話し掛けてきた。


「……誰か来る。」

「犯人か、乗客か……隠れて様子を見る?」

「そうだな。ちょっと戻ったところのトイレへ行こう。」


踵を返して来た廊下を後戻りした時、足音の主に見つかってしまった。


「貴様ら!さっきの放送が聞こえ無かったのか!」


恐る恐る振り返ると、水色の作業服を着た男が一人……


「杏奈!急げ!」


拓海の声に、ダッシュで近くにあったトイレへ駆け込む!


「止まれ!」


犯人の男も叫びながら追い掛けてきた!

トイレへ入ると、私は奥へ、拓海は入り口すぐ脇の洗面台へよじ登る。


バン!と音を立ててトイレへ入ってきた犯人の男は、すぐに私へ目を留めた。


「女ぁ!手間かけさせるな!傷物にならないようにしてやるから、大人しくしてろ!」


傷物?……身代金目的ではなく、売り飛ばすつもりなのね……


犯人の男が、一歩、二歩と私に近付いてくる……その時、洗面台へよじ登っていた拓海が、犯人の後ろから飛びかかった!


「ぐっ!貴様!」

「おりゃ~!」


ドサッ!

拓海の一本背負いが綺麗に決まった!犯人の男は、受け身を取れなかったのか、完全に伸びている。


「お見事……」


拓海がネクタイを解いて、犯人を縛り上げる。その間に意識を失っている犯人のポケットを漁ると、作業服の内側から銃が出てきた。


日本では簡単に銃なんて、入手出来ないわよね……一体どこから……




 銃を拝借してレストランへ戻ると、入り口には水色の作業服を着た男二人の犯人が待ち構えていた。


「お前ら!10分以内ってのが聞こえなかったのか!」

「す、すみません!迷子になってしまって……」

「いいから、とっとと入れ!」


怯えた振りをしながら答えると、乱暴に腕を掴まれてレストランの中へ押し込まれる。


「見廻りのヤツは、まだ戻らないのか?」

「遅いな。」


レストランのドアが閉まる直前、犯人達の話し声が聞こえてきた。


さっき片付けた犯人は、見廻りだったのね……銃を持っている犯人三人を相手に、人質の安全確保は難しい。一人でも片付けておいて良かったわ……


レストランの中を改めて見渡すと、乗客達は奥側に固まっていた。犯人らしき人物は居ないようだ。


「とにかくパニックにならないよう、犯人を刺激しないようにして下さい。助けは必ず来ます。それまで犯人の言う事に従って下さい。」


一人の背の高い男性が、他の乗客をなだめながら歩いている。


「拓海……あの人も、警察関係者かしら?」

「見たこと無い顔だな。他の県警や警視庁の可能性もあるけど……現時点では何とも言えないから、暫く様子を見よう。」

「分かったわ。」


乗客達を落ち着かせているのは助かる。

だけど、助けが必ず来るって言っても、犯人達が動き出したのは、スマホが圏外になった後よね……

何か引っ掛かる……


乗客達の様子を気にしながら、入り口を狙いやすい位置まで移動した。


「あのシャンデリアは、一発で落とせると思う?」


入り口近くの天井に吊るしてあるシャンデリアを指差して、拓海の意見を伺ってみる。


「俺も使えそうだと思ったよ。犯人の出方次第だけど、警察が突入してきたら、ここの乗客達を人質に取る可能性もある。その時には、撃ち落とそう。」

「了解。」


後は、警察が乗り込んで来るのを待つだけね……と、思ったのは甘かった!


バン!

勢いよくレストランのドアが開いたと同時に、入り口で見張りをしていた二人の犯人が、怒りの形相で入ってきた!


「見回りのヤツをやった野郎!出てこいっ!」

「出てこないなら、全員撃つぞ!」


犯人の二人が銃を乗客の足元に向け、引き金を引いた!

バン!バン!


「きゃぁ~!!」


一瞬でレストラン内がパニック状態に陥る!


「みんな!伏せろ!」


拓海の声を合図に、隠し持っていた銃を取り出し、シャンデリアを吊るしてあるワイヤーを狙う!


バン!バン!

二発目の弾が当り、狙いどおり犯人のすぐ側へ落下していった!


ガッシャーン!


「うわっ!」


犯人が怯んだ隙に、手元の銃を狙って引き金を引く!


バン!バン!

銃が弾け飛び、唖然とする犯人に向かってダッシュ!


「大人しくしなさい!」


犯人の腕を捻りあげ、持っていたハンカチで後ろ手に縛った。拓海に目を向けると、近くのテーブルから布巾を取り、もう一人の犯人の腕を縛っているところだ。


ふぅ……一瞬で片付いて良かったわ……


「素晴らしい!」


乗客達をなだめていた背の高い男性が、誉め称えながら拓海に近付いている。


あれ?ジャケットの袖口から何か見える……って、水色のシャツじゃない!


「拓海!その男も犯人よ!」

「チッ!」


背の高い男性犯人は、まだ犯人を縛っている拓海に向かって発砲!


「うっ!」


転げ避けたものの、拓海の太ももにかすり、血が飛び散る!


「拓海っ!」


カチャ……

背の高い男性犯人に向けて銃を構えた時、後ろから首に誰かの腕が回り、頭の横で金属音が……


「銃を捨てなさい。」


やられた……もう一人いた……人質が騒がないよう、犯人に従うよう仕向ける為に、カップルの振りをして紛れ込んでいたのね……


観念して、銃をなるべく遠くに放り投げる。


「あなた達、何者なの?」


背後から女性が問いかけてきた。


「答える義務は無いわ……」

「口が減らない女ね。死にたいの?」

「それは避けたいわね。」

「じゃあ、彼氏くんに死んで貰おうかしら。女の方が高く売れるしね。」


次に撃たれたら拓海は……最悪の事態が頭を過る……


男性犯人は、拓海に銃を向けたままだ。跪いている拓海に目を向ける。

その時、拓海が目線を動かして、私に何か合図を送ってきた。


冷静に、冷静に考えるのよ……拓海の目線は何処に……


気付かれない程度に頭を動かして拓海の目線を辿ると、女性犯人の持つ銃が視界に入ってきた。


この銃、安全装置を解除していないじゃない!チャンス!


ガバッ!と女性犯人の銃の安全装置が動かないように掴む!


「何するのよ!あんたからぶち殺してやる!って、あれ?」


カチッ、カチッ……

いくら女性犯人が引き金を引いても、銃は使えない。


「安全装置さえ押さえれば、銃は使い物にならないの。諦めなさい。」


銃を掴んだまま、思いっきり女性犯人の腕を肩に降り下ろす!


「う、腕がぁ~~!!」


女性犯人は銃を手離し、腕を押さえて床の上に崩れ落ちた。


「このアマ!」


男性犯人の銃口がこちらに向けられた瞬間、拓海が男性犯人の懐に潜り込む!


「お前の相手は、俺だ!」


拓海が男性犯人を投げ飛ばし、後ろからグッ!と締め技を決めて銃を取り上げると、男性犯人は諦めたように、項垂れた。




「私に掴まって……」


犯人達を縛り上げた後、すぐに拓海を肩で支えながら、ソファに座らせた。

皮膚を抉られる銃創は、かすっただけでもかなりの痛みになるって聞いた事がある。

拓海の顔は痛みに歪み、額からは汗が滲み出ていた。


テーブルのナプキンを取り、傷口を縛って止血を試みる。


「あれ……?」


手が震えて、うまく縛れない……


震える私の手を、そっと拓海の手が包み込んできた。


「怖かっただろ……もう大丈夫だ。」


暖かい……拓海の温もりだ……拓海は生きている……


気が緩んだのか、ポロッと一筋涙がこぼれ落ちていく。拓海は私の頬に手を添えて、涙を拭った。


「本当に怖かった……拓海が撃たれた時、最悪の事態が頭を過って……拓海が死んじゃったらどうしようって……」


拓海は安心させるようふわっと笑って、私を抱き寄せてくる。


「言っただろ?杏奈を一人にしないって……」

「うん……」


傷がかなり痛むだろうに、こんな時にまで私を気遣ってくれる……

拓海を……拓海を絶対に失いたくない……


それから暫くして、追いついてきた警察が操舵室を制圧した。




 フェリーは、出港した乗り場へと着岸した。乗客とクルースタッフを降ろし、残っている犯人達を引き渡していく。


そして、拓海に肩を貸しながら最後に降りた私達を出迎えたのは、目を丸くさせた県警の面々だった。


 「な、何で!鶴崎と杏奈ちゃんが!」

 「これって、カップル限定のバレンタインクルーズだよな!」

 「もしかして二人は付き合ってるのか?!」


うわっ!こ、これは言い逃れが難しいっ!


「た、拓海……どうする?」

「どうするって……手遅れだよな。」

「やっぱり……」

「仕方ない。バレた時は、開き直るしか無いだろ。」


そう言うと、拓海は黒い笑みを浮かべて、私の顔を覗き込むや否や……って、この雰囲気、マズいっ!


そう思う間もなく、いきなり深い口付けをしてくる!


「んっ!んんっ!」


やっぱり!バラすとしても、ここまで見せつけるキスは必要無いじゃない!


散々見せつけた後、やっと唇を離した拓海に速攻で抗議!


「ち、ちょっと!拓海!どういうつもりよっ!」

「せっかくだから牽制の意味も含めてみたけど、効果は抜群みたいだな。」


恐る恐る様子を伺うと、県警のみんなは言葉を失って、ポカ~ンと口を開けていた。


「ど、どうも……あはは……」


明日の出勤が怖いわ……


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