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第27話・東洋人女性連続殺人事件

 『……と言うのが、事件の概要だ。何か質問は?』


ニューヨーク市警出勤初日、ベンから、不動産投資詐欺の説明を受ける。


古いアパルトメントのリフォーム料金を先行投資して、家賃の一部を受け取るという内容だ。

だけど、実際には一部屋しかリフォームされず、現地不動産屋へ手数料を払うとマイナスになり、追加のお金を請求される。


投資の解約を申し出ても、お金は返らず、慣れないアメリカまで来て弁護士を手配するのも、更にお金と時間が掛かる。殆ど泣き寝入りするしか無い状態だ。


だけど、詐欺とはいえ、ちゃんとした契約を結んでいるようだ。


『契約書の内容も完璧ね……』


パラパラと契約書を開いて、読んでみる。

あれ?

契約書の内容に引っ掛かりを見つけた。


『ベン、この“room”っていうところだけど、どうして複数形では無いの?』

『流石はアンだな。日本人はみんなそこに気が付かないんだ。だから、不動産会社もアパルトメント一棟の管理費が発生するけど、リフォームするのは一部屋の契約で間違いないと言っているんだよ。日本人は全室リフォームだと思っていたという程度で、証拠は無くてね。』

『不動産会社とは、Eメールで連絡を取っているのよね?その中に全室を匂わせる記述は無いの?』

『肝心な内容になると、電話連絡をするらしい。あまり英語が話せない相手だろ?片言の日本語で“ゼンブ”って言うらしいんだが、管理費が一棟分だという説明をしたと言っていてな。』


英語が堪能な日本人も沢山いるわよね……もしかして不馴れな日本人を選んでいるのかしら……


『もしかして、私に日本からEメールアドレスやモバイルナンバーを持って来いと言ったのは……』

『察しの通り、日本の投資家のフリをして、証拠を掴んで欲しい。』

『分かったわ。』


早速、問題の不動産会社の日本語サイトを開いて、アクセスを試みる。

相手は英語が堪能な日本人を避けている可能性もあるので、翻訳ソフトを使って文章を入力し、あまり英語が話せない雰囲気を演出した。


『ベン、興味があるって言う内容を送ったわ。怪しまれないように時差を考えて、11時以降には、返事をしないようにするけど、構わない?』

『もちろんだ。』

『他にやる事は?』

『東洋人女性殺人事件の囮にアンを貸せと言われたけど、断っておいたよ。日本から呼び寄せた大事な捜査員だと言ってね。』

『道を歩くだけなら大丈夫よ。』


ベンは大袈裟に肩を竦めて、頭を横に振った。


『もし犯人に顔を覚えられても、24時間の警備は取らないって言うんだ。囮捜査中だけの警備なんて、危険過ぎだろ?』

『でも、他人事とは思えないわ。私自身も注意しておきたいから、概要を教えてくる?』

『俺も詳しくは知らないが、被害者はチャイニーズとコリアの二人、夜20時頃と21時頃だ。手口は後をつけて、銃でドンッ、被害者の共通点は、長い黒髪の東洋人だ。アンも気を付けろよ。』

『ありがとう。』


特徴は、長い黒髪の東洋人……まぁ、夜遅くに出歩かなければ大丈夫よね。


それからは、詐欺の被害者から話を聞いたり、調書に目を通して過ごした。




 夕方には仕事を終えて、アパルトメントへ帰る。市警を出て信号を挟んだ1ブロック先で、拓海が待っていた。


「杏奈、おかえり~!」

「拓……」


マズイ……外では偽名で呼ぶよう言われていたわよね……


あわてて名前を呼び直す。


「ケン、こんなところでどうしたの?」

「杏奈のお迎えに決まっているだろ。殺人事件もあるしな。」

「事件の時間帯とは違うから、大丈夫よ。それに毎日は大変よ。」

「俺だって捜査があるし、毎日は無理だ。来れる時だけで無理はしていないから安心しろ。」

「でも、どうして市警から離れたところで待っていたの?」

「ベンとトムは、俺の顔を覚えている可能性があるだろ?念の為だ。」

「何の捜査か分からないけど、そっちも気を付けてね。」

「お?俺の心配してくれるんだ♪」

「元同僚としてね♪」

「ったく、素直になれよな……」


そんな話をしながらアパルトメントへ帰ると、部屋には美味しそうな日本食が並んでいた。


「……もしかして、拓海が作ったの?」

「まあな♪今日は午前で終わりだったんだ。」


拓海は今、ケン・スギウラという偽名で、ロースクールに通っている。公安がマークしている教授の元で、講義を受けているそうだ。


「揚げ出し豆腐、関西風お好み焼き、だし巻き卵……まるで居酒屋みたいね。」

「吉田ソースを使った野菜炒めもあるぞ。野菜は殆ど冷凍だから味は落ちるかもしれないけど、そこは気にしないでくれ。」

「ふふ、こっちは冷凍が充実しているものね♪」


拓海が用意してくれた食事を頂いた後、お礼も兼ねてキッチンで洗い物をする。


「杏奈、今日は働いてきてるんだから、俺がやるよ。」

「食事を頂いたのだから、構わないわ。」

「だったら、食器を拭いていくよ。」

「よろしくね。」


決して広いとは言えないキッチンに二人で並んで立つ。


こうしていると、まるで新婚夫婦みたいね……


「何だか俺達、結婚したみたいだな。」


以心伝心のような拓海の呟きに、思わず洗っていたお皿を落としそうになる。


「な、何を言い出すの!」

「いや、何となく家族が出来るって、こんな感じかなぁと思ってな。俺、知らないからさ。」

「そっか……」


拓海は施設で育っているものね……


「なぁ、まだ俺と付き合う気になれないか?」

「言ったでしょ?拓海が本当に頼りになるかどうか、見極めてからって。」

「お嬢様は厳しいな……」


再会した日、顔を見た瞬間に、懐かしさと愛しさが込み上げてくるのが、自分でも分かった。

そして、拓海も私と付き合いたいと言ってくれた。だけど、断った……


恐らく拓海は公安の中でも、海外を飛び回る役だろう。好きになって、付き合って、すぐにまた連絡の取れない海外へ赴任……外国の企業で5年や10年内偵調査する事もあると、聞いた事がある。


拓海がどうこうでは無い……私に踏み込む勇気が無い……


「私って、我が儘だな……」

「ん?何か言ったか?」

「な、何でも無いわ!久しぶりのニューヨーク市警だから、ちょっと気疲れしただけよ!」

「そっか、無理するなよ。」


チュッ……

拓海は私の額にキスを落としてくる。


「……拓海は再会してから、よく額にキスをするわね。」

「ご希望なら、ここでもいいけど♪」


ちょん!っと唇を突かれる。


「そ、そんな事言って無いわ!」

「額にキスをするのは、杏奈が元気になるおまじないだよ。」

「おまじない?」

「覚えて無い?俺の彼女が死んで落ち込んでいた時、杏奈がやってくれただろ?早く心が癒されますように……って。」


う、嘘っ!起きていたの?寝ているものだとばかり思っていたわ!


「はは!寝ていたんじゃぁ無いのかって、思ってる顔だな!」

「ま、まぁ……」

「大体、好きな女に抱きついていながら、手を出せない地獄で、眠れると思うか?」

「それは……」


てっきり私に抱き付きながら、彼女の夢を見ているものだと……


拓海は腹黒い笑みを浮かべて、私の顔を覗き込んでくる。


「へぇ~、杏奈もそんな顔をするんだな。」

「ど、どんな顔よ!」

「そこまで動揺した顔、初めて見たよ。」

「動揺なんてしていないわ!さ、先にシャワーを頂くわね!」


小走りに自分の部屋へ戻ると、背中から拓海の笑い声が聞こえてきた。




 翌朝、市警に出勤してフロアへ入るドアを開けようとした時、言い争う声が聞こえてきた。


『だから、早く日本人を貸せと言ったんだ!お前達のせいだからな!』

『お前達の無能さを、俺達に押し付けるな!』

『何だと!』


話に上がっている日本人って、私の事よね……は、入りにくい……


『アン、そこで何をしているんだい?』


声をかけられて振り向くと、トムが不思議そうな顔をしている。


『おはようトム、入り難くて……何かあったの?』


言い争う声で察したトムが、納得したように頷いた。


『あぁ、昨夜、また東洋人女性が殺されたんだ。』

『そうなの?』

『今回は日系ブラジル人だってさ。見た目は日本人だし、手口も一緒だから、同一犯だろうって事なのさ。』


またしても犠牲者が出てしまったのね……


トムがフロアのドアを開けて一緒に入るとすぐに、冷たい目付きをした白人男性が、私に近寄ってきた。


『君がアンかい?』

『ええ、そうよ。あなたは?』

『俺はニコラスだ。ニックでいい。東洋人女性連続殺人を担当している。』

『あの事件の……』

『早速だが、君に囮をやって貰う。これ以上犠牲者を出さない為だ。』

『私に選択権は無いの?』

『では、もっと犠牲者を出したいと言うのか?』


ニックと静かな火花を散らしていると、ベンが私を庇うように立ち塞がった。


『何度も言っただろ!アンはお前達の捨て駒ではない!身の安全を24時間保証しない限り、アンは貸さないからな!』

『仮にも警察なら、身の安全くらい自分で確保出来るだろ。』

『犯人は銃を使っているんだぞ!自分で完璧な確保なんて出来る訳無いだろ!』


ニックがベンを無視するように、私へ話し掛けてきた。


『アン、お前はこれ以上の犠牲者を出したいか?それとも囮になって早期解決したいか?』


これは厄介になったわね……

早く解決したいのも山々だけど、物盗りの囮とは訳が違う……防弾チョッキを着ていても、頭や首を狙われたら最後だし……


『ニック、捜査は何処まで進んでいるの?』

『そんな事、お前に関係無い。どうせ平和ボケしている日本人に解決は無理だ。俺達の指示に従って夜道を歩けばいい。』


むむ!日本の検挙率はアメリカより高いのよ!


ここ最近必要が無かったお嬢様笑顔で、久々に武装する。


『ニック、私を捜査チームに入れてくれないかしら?』

『入れてもいいが、口出しはするな。』

『あら、では交渉決裂ね。』

『何だと!お前も警察だろ!日本では、市民の安全を守るのは当たり前では無いのか!』

『それを決めるのは、ニックよ。』


チッ……

ニックが舌打ちをしながら、私を睨み付ける。


『……日本人はもっと従順では無かったのか?』

『いい勉強になったわね。そんな日本人ばかりでは無いわよ。』

『口の減らない女だ……』

『それで、どうするの?私をチームに入れるの?それとも犠牲者を更に出すの?』

『……チームに紹介する。ついて来い。』


ベンが気遣うように、私を見ている。


『アン……』

『大丈夫よ、ベン。詐欺の方もちゃんとするわ。』

『そうでは無くて、囮の方だよ。』

『いきなり囮なんてしないわ。それは最終手段よ。では、行ってくるわね。』

『何かあったら、すぐに言えよ。』

『ありがとう♪』


こうして、2つの捜査を受け持つ事になった。



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