第11話・不本意な同居生活開始!
溝畑製薬での勤務終了時間後、犯人の目星がついた事を報告する為、キャリアくんと一緒に県警本部へ戻った。
「お疲れ様ですぅ~♪」
刑事部のドアを開けて捜査二課へ声を掛けると、みんなが振り向いて挨拶を返してくれている。
何だか見知った顔触れに、安心感を覚えるな~♪
「どないしたん?杏奈ちゃん、めちゃご機嫌やん!そないに俺に会いたかった?」
すかさず蝶谷さんから軽いノリが入った。
「ふふ♪やっぱり私にはOLよりも刑事だなぁと思ってぇ~♪」
パパとママが亡くなった事故を調べる為に警察官になったのに、いつの間にか馴染んで来たなぁ~と実感するわ♪
「松浦さん、送ってくれた送金依頼書で、面白い事が分かったで!」
「本当ですか~?」
鹿野さんの声に、みんなでデスク周りに集まる。
「松浦さん、今年の送金依頼書を見るのは無理じゃった?」
「書庫に保管されているものだけなので、前年度が最新でした。」
「ほうか……」
「何がありましたかぁ?」
「毎月送金しとる子会社が、この5社じゃ。ほんで、このうち1社は4ヵ月前に潰れとる。」
「という事は、今年度に入ってすぐですね……」
「今年度に入って送金を止められたのかどうかを調べんといけんが、3月までこの額を振り込まれとって、すぐに潰れるとは考え難いんじゃ……」
「もしかして……」
「あぁ、送金しとると見せ掛けて、子会社へは全額渡っとらん可能性があるのぉ……」
成る程……そこで裏金作りをしているかもしれないわね……やっぱりペーパーカンパニーなんて単純な構造では無かったと……
みんなで黙り込んで思案していると、河猪課長が指示を出していく。
「よし!鹿野は引き続き、子会社の決算を調べてくれ。」
「はい。」
「蝶谷も、鹿野と捜査に当たってくれ。」
「はい。」
それから課長は、私とキャリアくんに向き直った。
「松浦達は、脅迫状について何か掴めたか?」
「はい、まだ証拠は掴めていませんが、開発部の新薬開発担当者で間違いないと思います。」
「それは何故だ?」
「開発中の新薬が、本当に人の為になるのか自問自答していると、愚痴を溢していました。」
「そうか……成果を出さないといけないプレッシャーから、犯行に及んだ可能性もあるな……」
たぶんそれは無いと思う……だけど、動機についてはまだ憶測の域を出ないし、まだ言わない方がいいかも……
「よし!二人とも開発部で働けるよう、社長に言っておくから、社長の指示に従ってくれ。」
「はい!」
「はい。分かりました。」
二課での打ち合わせが終わって、明日も潜入捜査がある私とキャリアくんは、帰宅の途についた。
「お嬢、先に着替えを取りに行ってもいいか?」
「どうぞ。」
最近、キャリアくんが私の部屋へシャワーを浴びに来る事が、当たり前に感じている自分が怖いわ……
「すぐに仕度するから、玄関の中で待っててくれるか?」
「外でいいわよ。」
すかさずキャリアくんの顔に、黒い笑みが浮かんでくる。
「あれ?もしかして、俺に襲われるとか思った?」
「そんな訳無いでしょ。そこまでナルシストでは無いわ。」
「期待しているなら、それに答えてやろうかと思ったんだが、残念だな。」
「はぁ?口説き文句なら、最低な部類ね。」
「なら、玄関の中でいいな。外側だと何かあっても、すぐに気付かないから。」
「フェミニストならではね……」
「だから、俺は女性に優しい生き物だって、言ったろ?」
「そ~ゆ~事にしておくわ。」
キャリアくんが、昭和の雰囲気漂う平屋の玄関引戸を開けると、ヒラヒラと一枚の紙が舞い落ちてきた。
「何か落ちたわよ。」
拾おうとしゃがんだ時、紙に書いてある文字に釘付けになった!
「これっ?!」
「勝手に見るなっ!」
キャリアくんが、横から紙を奪い取る!
「そ~ゆ~問題では無いでしょ!」
すかさず奪い返し、紙を広げて改めて文字を読んだ。
《彼女の笑顔は、僕のものだ!お前を許さない!》
キャリアくんは諦めたように、ため息をついている。
すぐにハンカチを取り出して、これ以上、紙に指紋が付かないよう注意した。
「この脅迫状、一体何なの?」
バツが悪そうに頭を掻いて、キャリアくんは何も話さない。
私に見せまいとしていた事を考えると、ここに書いてある彼女って……
「とりあえず、マンションで話しましょう。」
「分かった……」
先にシャワーを浴びて貰い、一旦落ち着いてもらう。
リビングのテーブルに脅迫状を置いて、キャリアくんが出てくるのを待った。
「お先……」
「ここに座って。」
テーブルの向かい側を指差すと、キャリアくんは、ゆっくりと腰を下ろして、プシュッ!と、ビールのプルタブを開ける。
「さて、説明して貰おうかしら……」
「……」
「ここに書いてある彼女って、もしかして……」
「たぶん、お嬢だろうな……」
「いつから?初めてでは無いわよね?」
「キャバクラの潜入に行き始めた頃からだ。」
「そんなに前から?バディを組んですぐじゃない!どうして言わなかったの?」
「最初はお嬢とバディを組んだ嫌がらせだと思ったんだ。近づくなって程度だったしな。だけど、たぶん外部の人間だ。」
「どうしてそう思うの?」
「コンビニで昼からビールを買い込んだ事があるだろ?あの時から、内容が攻撃的になってな。」
「ここ最近、必ず私を送り届けていたのって……」
「まぁ、これもあるかな。お嬢のストーカーの可能性が高いし、下手するとお嬢に危害を加えるかもしれないだろ?」
「そう……」
さっき、玄関の中で待つように言ったのも、これが原因なのね……一体誰が……
遠くから響く消防車のサイレンを聞きながら、ビールを飲み干した。
って、あれ?サイレンが近くない?しかも一台どころでは……
「なぁ、お嬢、さっきから外が賑やか過ぎないか?」
「私も思ったわ。ちょっとベランダに出てみましょうか。」
二人で立ち上がって、ベランダから街並みを見下ろしてみる。すぐ下にはコンビニ、目線を上げると県警本部が見える位置だ。
「あっ!!俺の家が火事だっ!!」
ダッシュでキャリアくんが、玄関から飛び出して行く!
「えっ?!」
もう一度、火事の現場へ目を向けた。
本当だ!コンビニの隣から、火柱が上がってるじゃないっ!
急いで私も部屋を飛び出した!
火事現場の近くまで来ると、所轄の警官が現場を規制し、茫然とするキャリアくんの近くには、捜査一課の八橋さん達がいた。
「あれ?杏奈ちゃん?どうしたの?」
私の姿に気付いた八橋さんが、声を掛けてくる。
「私の家は、すぐそこのマンションなのですぅ~。サイレンが近かったもので、気になってぇ……」
「そうなんだ。実は、鶴崎の家らしいんだ。」
それから暫くして、火は消し止められた。
「鶴崎、保険は入っているか?」
「はい……」
「良かったな、と言うのも何だけど、全焼らしいぞ。」
「そうですか……」
まぁ、全焼と半焼って、被害の大きさは然程変わらなくても、下りる金額が違うものね……せめてもの救いかしら……
連絡を受けただろう河猪課長も駆け付けて、簡単な聴取が終わり、その場は解散になった。
「近くのビジネスホテルに連絡しようか?」
がっくりと肩を落とすキャリアくんに、恐る恐る声を掛けてみる。
「お嬢……客間に泊めて欲しいんだけど……」
こんなに力無く項垂れるキャリアくん、見た事無いかも……
ストーカーらしき人から守ってくれていた優しい一面もあるし、全財産を失ってしまった今、助けてあげたいのも山々……
ただ、流石に泊めるのは抵抗がある……
「ごめんなさい……いくら何でも泊めるのは……」
申し訳無いとは思いながらも、断ると、俯いていたキャリアくんから、耳を疑うような呟きが聞こえてきた。
「俺、頑張ってお嬢を守っていたのに、お嬢は冷たいよな……」
「……はいっ?」
「大学の奨学金を返しているから、ホテル暮らしなんて贅沢は出来ないし、恩人に野宿しろって言うんだ……」
前言撤回!やっぱりこいつは腹黒だ!
「そんなに野宿が嫌なら、婚約者の家へ行けばいいでしょ!」
「それが出来るのなら、とっくにしているさ。」
俯いていたキャリアくんが、顔を上げた。
何処が落ち込んでいるのよっ!明らかに、爽やかとは程遠いブラックオーラが漂ってるじゃない!
「間違いなく放火だよな……たぶんお嬢のストーカー……これって、守り損……」
「分かったわよ!荷物部屋で良ければ勝手に泊まりなさいよ!」
「流石はお嬢!話が分かるなぁ♪」
「ただし、保険金が下りるまでだからね!」
「りょ~かいっ♪」
何故だろう……全財産を失った人間に対して、これっぽっちも同情が出来ない……
こうして、キャリアくんとの同居生活が始まった。
翌日、コンビニの防犯カメラから、すぐに犯人が捕まった。コンビニのアルバイト店員だった。
遠くから見ていた私に、急に男がまとわりつくようになり、引き離さなければ!と、迷惑な義務感に駆られたらしい。
現場検証と事情聴取で溝畑製薬の仕事を休んだキャリアくんが、夜になって疲れた顔で帰ってきた。
「どうしたの?そんなに疲れて……」
「俺って被害者だよな……」
「ん?それがどうかしたの?」
「まるで犯人のような扱いを受けたよ……」
「……?ごめん、全く話が見えないんだけど。」
とりあえずリビングに促して、キャリアくんにビールを差し出す。
一口飲んだキャリアくんが、ゆっくりと口を開いた。
「犯人がご丁寧に、当日の俺達の行動を供述してな……捜査一課だけでなく、生活安全部、交通機動隊までお嬢の親衛隊が集まって、何故お嬢は俺の家に行ったのか、どうして一緒にお嬢のマンションへ行ったのか……とにかく滅茶苦茶な取り調べ状態だったよ……」
ぷっ!その光景を想像して、思わず吹き出してしまった。
「笑い事じゃ無い!昨日泊まった部屋に、“魔法使いポット”の洋書が全巻置いてあったのを思い出して、貸す約束をしていた本を取りに来たけど、重たいからマンションまで運んだって、誤魔化すのが精一杯だったんだからな!」
「ふふ♪ごめん、ごめん!何だか楽しそうな取り調べだと思ってさ♪」
強引に泊まるから、バチが当たったのよ♪
内心ほくそ笑んでいると、キャリアくんに、ジロッ!と、睨まれた。
「今、絶対に、ざまぁみろ!って思っただろ!」
「拓海さん!とんでもございませんわ~♪」
「完全に口角が上がってるぞ……」
「そんな、バチが当たったなんて、これっぽっちも考えておりませんことよ~♪」
「……お嬢の冷たい心がよく分かったよ。」
「何故同居してるって言わなかったの?」
「それ、本気で言ってるのか?俺、親衛隊から確実に殺されるぞ……」
「ふふ!私の手を下さなくて済みましたのにぃ♪」
ふっ!ふっ!今夜はいい夢が見られそうね♪




