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第九十七話 手に入れたわよッ!!

 完全な不意打ち。

 バランスを崩したベルゼブブは、のけ反りながら火口に向かって落ち始めた。

 浮遊感。

 ベルゼブブの手を離れた私は、そのまま宙へと放り出される。

 ……やばッ!

 吹き上げる熱風に、身体が縮み上がる。

 だがその次の瞬間、ディアナの手が私を抱き止めた。


「……た、助かった!」

「まったく、あまり無茶をするもんじゃないぞ!」

「ごめんごめん! でも、ディアナが助けてくれるって信じてたからさ」

「信頼してくれるのはありがたいんだがな、少しは自己防衛をしてくれ」


 軽くため息をつくディアナ。

 彼女の手で地面に下ろされたところで、私はすぐさま下を覗き込む。

 するとそこには、炎に包まれながらも何とか飛ぼうとしているベルゼブブの姿があった。

 羽が小さくて飛ぶのが苦手そうだったわりに、マグマに落ちる寸前で浮くことに成功したらしい。

 だけど、噴き上がる火の粉で身体は燃えていてボロボロ。

 あともうひと押し、といったところだ。


「こうなったら、貴様も引きずり込んでくれるッ!!」

「ち、執念深い奴ね! こうなったら……やっぱりあれしかないわッ! 精霊さん、やるわよ!」

『む、了解なのです! でもシース、魔力の方は大丈夫なのです?』

「私は平気よ。まださっきの奴が、ちょっぴり残っているわ!」


 まだ紅の残る髪。

 それをすくい上げながら言うと、私はこちらに向かってくるベルゼブブと対峙した。

 腐っても伝説の魔族。

 ボロボロになりながらも飛ぶその姿には、異様なまでの凄みがあった。

 爛々と輝く瞳からは、並々ならぬ生への執着が感じられる。

 ――こうなったら、私が責任もって終わらせるしかないわね!

 剣を高く掲げると、全身に残された魔力を一気に集中させていく。

 一時は弱まっていた髪の色が、再び鮮やかな紅に染まった。

 ろうそくの火が最後は一気に燃え上がるように、わずかだったはずの魔力が沸き立つ。


「狼牙……爆砕剣ッ!!!!」

「ぬおおォッ!!!!」


 静かに突き出された切っ先。

 そこから衝撃波が迸り、ベルゼブブの身体を貫いた。

 黒光りする巨体は突風でも受けたかのように煽られ、マグマに向かって下降していく。

 その様子はさながら、見えない手にでも捕まれたかのようだった。

 ゆっくりゆっくり

 少しずつではあるが、確かに引きずり落とされていく。

 やがて彼の足はマグマへと達し、そこから全身へ一気に炎が広がる。

 絶叫。

 身体を掻きむしりたくなるような不快で恐ろしい断末魔が、火山全体に轟いた。


「……はあ、はあ! 勝ったッ! 勝ったわよッ!!」

「やったな! これで完全勝利だッ!!」

「ええ! さすがに、訓練しててもちょっと疲れたけどね」


 額に溜まった汗をぬぐうと、その場にぺたんと座り込む。

 伝説の魔族と言われるだけあって、流石に恐ろしい敵だった。

 ディアナが上手い具合に身体を呼び寄せてくれなかったら、絶対に負けてたわね……。

 今回の勝利は、本当に彼女のおかげだ。


『でもシース、また魔石を手に入れ損ねちゃったのですよ。残念なのですー』

「それはどうかしら?」

「む、どういうことだ?」

「ベルゼブブの能力を考えてみなさいよ。ご丁寧に全てを一体にまとめたとか言ってたけど、本当だと思う? 私だったら、こっそり予備を取っておくわね」

「……なるほど、それもそうだな」


 ポンッと手をつくディアナ。

 やれやれ、今日は冴えてると思ったのに気づいてなかったのか。

 私は額に手をやると、さらに続けて言う。


「だいたいあいつ、勇者の髪色を知ってたでしょ? ということは、勇者と会ったことがあるってことよ。勇者があんなのに負けたとも思えないから、あいつは何か上手いことやって生き延びた。そう考えれば、簡単にたどり着ける結論だわ」

「言われてみれば、確かに」

「精霊さん、エコーよ! 出来るだけ、小さな魔力反応も逃さないようにね! っと!!」


 そう言ったところで、岩陰から何かが飛び立った。

 行動分かりやす過ぎよッ!

 私はすかさず石を手にすると、羽音を立てる影に向かって思いっきり投げつける。

 ナイスヒット!

 鋭い軌道を描いた石は、見事に影を穿って落した。

 カランカランッと、石が唸るような硬質の音が響く。

 すぐさま走り寄れば、そこには怪しい光を湛えた拳大の魔石が落ちていた。


「やっぱり! ちっこい分身を作っておいて、いざって時はそっちに魔石を移し替えるようになってたんだわ!」

「こんなからくりがあったとはな……。どうりで、戦いの最中もずいぶん慢心していたわけだ」

「その慢心が、今回は命取りになったってことね」


 魔石を拾い上げると、その重さに思わず笑みがこぼれる。

 間違いなく過去最大級の逸品だ。

 光り方も申し分ない。

 マグマの紅い光を反射して、それ自身が燃えているかのように力強く輝いていた。

 まさに魅惑の輝き。

 見ているだけでうっとりとした気分になり、眼元が緩む。


「さてと、魔石も手に入れたことだしいよいよ進化ね!」

「うむ、そうだな!」

『いよいよ、シースも人型に戻る時が来たのです?』

「失礼ね、今だって人型ではあるわよ! ……まあでも、これを食べれば人間の頃の姿に戻れるのはほぼ確実かしらね。握ってるだけで、魔力の波動が伝わってくるわ」


 これまでの進化を考えると、私が元の姿に向かっていることは間違いない。

 そこで一気にこれだけの魔力を摂取すれば……!

 いよいよ、かつての美しい姿を取り戻す時が来たわ。

 ああ、夢と希望で胸が膨らむッ!

 この骨と皮だけの身体におさらばして、麗しのナイスバディを手に入れるのよ!


「さっそく食べるわよ! っと、その前に。ここだと危険だから、洞窟に戻らないとね。さあ、みんな行くわよ!」

「あ、待ってくれ!」

『シース、急ぎ過ぎなのですよ!』


 斜面を一気に駈け下り、洞窟へと向かう私。

 進化の時は近い――!


いよいよ次回は進化です!

ご期待ください!

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