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第九十六話 仲間って大切よね!

「その色は……!」


 私の髪の色に、何故か動揺する一同。

 ディアナや精霊さんはもちろんのこと、ベルゼブブまで動きが止まってしまっている。

 そんなに衝撃的な色をしてるのかしらね、今の私の髪って?

 頭に手をやり、試しに一本引き抜いてみる。

 うーん、普通の紅髪の気がするけどな……。

 しいて言うなら、凄い透明感があって炎みたいに光が揺らめいてるところがおかしいだろうか?

 でも、王都にでも行けばもっと変わった髪色なんていくらでもあるってのに。

 まったく、失礼しちゃうわ!


「なに? どうしたっていうのよ!?」

「似ているのだ、フェイルに!」

「フェイルにって……つまり、勇者に?」


 私が問い返すと、ディアナはやや引きつった表情でうなずいた。

 それに同調するように、精霊さんの入った剣も震える。


『そっくりなのですよ! その燃え立つような髪の色合い、フェイルと同じなのです!』

「そう? 確かにここまで強い紅は珍しいかもしれないけど……まあいいわ! 今はそれよりも……!」


 ベルゼブブの顔をバシッと指さす。

 私の変化がよっぽど意外だったのだろう。

 表情にはわずかにだが焦りが見られた。

 伝説の魔族ともあろうものが、情けないわね!

 よっぽど勇者に対して、嫌な思い出でもあるんだろうか?


「あんたをブッ飛ばすわ。覚悟しなさい」

「出来るか? 髪色だけの勇者が」

「むしろ、出来ないと思うの? たかが虫一匹潰すくらい」

「抜かせ」


 苛立たしげにそう言うと、ベルゼブブは一気にこちらへと突っ込んできた。

 ――見えるッ!!

 迫ってくるベルゼブブの姿を、しっかりと目で追うことが出来た。

 見えるならこっちのもんよ!

 接近してくる奴の拳を、剣で何とか受ける。

 鈍い衝撃。

 金属音が響き、支えていた手がしびれる。

 でも、耐えられないほどじゃない!


「はんッ!」

「ぬッ!?」

「今度はこっちからよ! そりゃァッ!!」


 渾身の袈裟切りッ!!

 刃がわずかにだがベルゼブブの方に食い込んだ。

 ベルゼブブの口から、微かに呻きが漏れる。


「やるな。だがその力、いつまで持つかな?」

「一分もあれば十分ッ!」

「それで倒されるほど、この我は甘くはないぞッ!」


 そう言うと、ベルゼブブは手を高々と掲げた。

 するとどこからか槍が現れ、広げられた掌にすっぽりと収まる。

 いったん三又に分かれた穂先が、最先端でねじれて絡んだ猟奇的なフォルム。

 相当な業物であるのが、眼で見ただけでわかる。


「魔王様より賜りし槍だ。これで串刺しにしてくれる」

「いよいよ奥の手って訳か。伝説の魔族にしては、余裕ないんじゃない?」

「あいにく、用心深いのでな」

「どうだか、臆病なだけに見えるけどねッ!!」


 今度はこっちの番よッ!

 すぐに決めてやるわッ!

 剣を低く構えると、一足飛びにベルゼブブとの距離を詰める。

 そして、剣をザッと横に払った。

 剣先が唸り、風が舞う。

 しかし敵も去るもの、とっさに飛び退いてそれを回避すると、すかさず槍の一撃を入れて来た。


「ぐッ!? なにこれッ!」


 奴の槍と刃を合わせた途端、何かを持っていかれる感覚があった。

 これは間違いない、魔力だわッ!

 あの槍、魔力を奪う力があるみたいねッ!


『シース、あれはヤバいのですよ! 魔力を奪われるのですッ!』

「ええ、分かってるわ!」

「この槍には特殊な魔法陣が刻まれていてな。武器を交えた相手の魔力を、すべて奪い尽くすのだ」

「そりゃまた厄介なこと!」

「まずは、その変身を解いてやろう」

「そうは行きますかってのッ!!」


 本当は一時退避したいところだけど、ここで逃げちゃったら勝利の見込みはほとんどない。

 次々と繰り出される槍を何とか回避しながら、頭をひねる。

 どうすれば、どうすれば勝てるのか。

 このまま接近戦を続けていても、じわじわ魔力を削られて負け。

 かといって、魔法の達人であろうこいつに私のしょっぱい攻撃魔法なんて恐らく通じない。

 何かこいつの弱点でもあれば……そうだッ!

 マグマよ!

 伝説の魔族と言っても所詮は蝿なんだから、炎で焼かれれば死ぬはずだわッ!


 問題は、どうやってやつをマグマに落とすかね。

 一応羽は生えているけれど、見た目の割にはかなり小さい。

 他の奴が飛び立つときも、助走をつけてえっちらおっちらと飛んでいた。

 たぶん、いきなり落せばすぐに羽を開いて飛ぶことはできないだろう。

 いつの間にか火口の近くまで来ていたから、やるにはうってつけの環境だ。

 でもまさか、あいつが足を踏み外すなんてことはないだろうし。

 不意打ちでもできれば話は別だけど、それもちょっとね。

 誰かもう一人いれば……って、ああッ!!


『――――!』

『――! ――――』


 よしよし、なかなか準備が良いじゃない!

 あとは、こいつをおびき寄せれば……!


「はあァッ! とりゃァッ!」

「急にやる気が出てきたな?」


 攻め始めた私を、逆に押し返してくるベルゼブブ。

 この調子だ!

 私は押されているように見せかけて、少しずつ火口へと近づいていく。

 すると――


「む? なるほど、この我を火口へと導こうとしていたな? それで不意を衝いて、突き落とす算段だったのであろう?」

「それはどうかしらね?」

「しらを切りおって。かわいげのない奴は、こうしてくれよう」

「な!? ちょっと!」


 剣を払い飛ばしたベルゼブブは、いきなり私の足を掴んだ。

 奴はそのまま私を抱きかかえると、火口に向かって歩き始める。

 ヤバい、こいつ私を投げ込むつもりだッ!!

 全力で抵抗しようとするものの、力が入らない。

 く、そろそろ時間切れって訳か……ッ!

 途中で魔力を吸われたせいか、予想していたよりもかなり早い終了だ。


「放せ、放しなさいよッ!」

「良かろう。火口の上で放してやる」

「それじゃ意味ないでしょうが! 嫌よ、絶対嫌よ! 蝿に殺されるなんてッ!!」


 ああだこうだと騒いでは見るものの、ベルゼブブは全く意にも介さなかった。

 こーんな美少女が泣いてるって言うのに、まったくお構いなしってか!?

 これだから虫けらは……!

 世界に多大な損失を与えることを何とも思わないのかしらねッ!?

 台所のあれみたいな姿をして生意気な……ッ!


 こうして私が憤慨している間にもベルゼブブは歩みを止めず、ついに火口の縁へと立った。

 噴き上がる火の粉が頬を撫でて、熱さに身がすくむ。

 恐々と下を覗けば、たちまち紅いマグマが見えた。


「ホントに投げるの? 考え直すつもりはない……?」

「さっきから見苦しいぞ。少しは潔くしたらどうだ」

「あいにく、執着は強い方だからね。でも本当にいいの、後悔することになるわよ?」

「くどい! さっさと片付けてやろう」


 そう言うと、ベルゼブブは私の身体を投げ込むべく高く持ち上げた。

 こうして、体勢が不安定になったところで――


「ぬおッ!?」

「言ったでしょ、後悔することになるってね!」

「ぐッ! 完全に忘れておったわ……ッ!」


 ディアナが目覚めた時にこっそり呼び寄せていた、首のない身体。

 潜んでいたそれが姿を現し、ベルゼブブの背中に思いっ切り体当たりを食らわせた――ッ!


シースは魔石を手に入れられるのか……!

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