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第九十話 王の力?

「これでよしっと!」

「この中に入るのか?」

「ええ!」


 中身をくりぬいた岩を、ポンポンと叩く。

 その表面には小さな穴が開けられていて、外を覗けるようになっていた。

 ディアナのために、私がせっせと岩を削って作り上げた自信作である。


「穴を塞ぐ蓋もちゃんとあるわ。これで、ベルゼブブにもそうそう簡単にはばれないはずよ」

「ホントにこんなもので上手く行くのか? 心配だな……」

「いざとなれば、頭は生やせるんでしょ? だったら問題ないじゃない!」

「そうは言ってもだな。痛みは普通に感じるし、生やす時だってかなり疲れるんだぞ?」


 私お手製の小道具が気に入らないのか、どうにも懐疑的なディアナ。

 自ら囮になると言い出したわりに、文句の多い奴である。

 女だったら、一度やるって言ったら黙ってビシッとやり遂げてほしいもんよね。

 まあ、ナイフで石を削るなんて無茶したからクオリティが低いのは分かってるけどさ。

 

「これしか方法がないからね。それに、やつら――」


 そう言っているそばから、身体が重くなってきた。

 はるか遠く、火山の向こうに巨大な魔物の姿が現れる。

 今日一日――腹時計基準だけど――だけでも、これで三回目だ。

 この間から、明らかに活動が活発化している。

 私たちの存在に気づいて、捜そうとしているのは明白だ。


「ちッ、かなーり必死みたいね」

「ああ、もう三回目か」

「こうなったら、とっとと奴らの正体を探って何が何でも先手を打つしかないわ。このままだと、見つかるのも時間の問題よ!」

「そうだな。……わかった、その中に入ろう!!」

「ありがと! じゃあ、さっそく……」


 ディアナの決断に、笑みを浮かべて頷く。

 そしてこっそり用意しておいたサラマンダーの死骸を、岩陰から引っ張り出した。

 ベルゼブブの興味を引けるように、あえてその傷口は目立つようにしてある。

 背中をざっくりと斬られたサラマンダーは、明らかに人が倒したものだと分かるだろう。

 罠を仕掛けた犯人を捜しているベルゼブブなら、間違いなく食いついてくるはずの餌だ。


「あとは、このすぐそばに岩を置いてっと。さ、ディアナ!」

「任せておけ。こうなったからには、奴の正体を必ず見て来ることを約束しようッ!!」

「ええ、頼んだわ」


 グッと親指を上げると、ディアナはそれに応じて深々とうなずく。

 彼女はそのまま頭を外すと、ゆっくり岩の中へと入れてくれた。

 私は岩に蓋をすると、大急ぎでその場から離れる。

 その後を、首を置いたディアナの身体がついてきた。


「ふう、これでいいわね。あとはあいつが来るのを待つばかりか」

『大丈夫なのです? やっぱりちょっと、心配なのですよ』


 結界の中へと避難したところで、精霊さんが心配そうに言う。

 何せ、敵は魔王軍の大幹部だ。

 心配かそうでないかと言ったら、私だって心配に決まってる。

 でも……すぐ隣にいるディアナの胴体の肩を抱えると、言う。


「ディアナの本体はこっちよ。大丈夫、胴体さえ押さえていれば何とかなるから」

『確かにそうなのですけど……見た目がなんか抜け殻っぽいのです』

「見た目で判断しない! ほら、こうやってコミュニケーションだって取れるわよ!」


 ディアナの手に石を握らせてやると、たちまち地面に「大丈夫」と書上げてくれた。

 口がないので話すことは出来ないが、指はあるので筆談できるってわけだ。

 書くのも意外と早いし、この分なら実況もバッチリできそうね。


「ディアナ、今どんな感じ?」

「敵がこっちに近づいてきている。シースの思惑通りだ」

「よし、今のところは順調みたいね」


 笑いながら、グッと拳を握りしめる。

 そうしている間にも、ディアナの実況は続いた。

 地面に次々と文字が書上げられていく。


「敵の姿がはっきりとしてきた。ん、ここで急に姿が変わったな。幻惑の内側に入ったかもしれん」

「敵の様子は?」

「精霊さんの言っていた通り、蝿ばかりだな。だが、思ったより小さいかもしれん」

「どのぐらいの大きさなの? 分かる?」

「今の私とさほど変わらないぐらいだ。蝿にしては規格外だが、予想していたよりはだいぶ小さい」

『むむ? 一匹、もっと大きな奴が居るはずなのですよーッ!!』

「よし分かった、捜してみよう」


 そこで、ディアナの指の動きが途絶えた。

 一体どうなるのだろう?

 自然と唾を飲む。

 緊張感のせいか、時間の流れが嫌にゆっくりと感じられた。


「居たぞ!!」

「ホント!?」

「他の蝿よりも、明らかに大きな奴が一匹いる! ちょうど、群れの中心あたりだな!」

「それ、どう考えてもベルゼブブじゃない! 絶対に目を離しちゃだめよッ!」

「もちろんだ!」


 ディアナも興奮しているのか、筆致が心なしか荒っぽい。

 彼女は指を躍らせ、続けざまに文字を書上げていく。


「ベルゼブブの奴、こちらに向かってくるぞ! だが、私に気づいたわけではなさそうだ。おそらく、サラマンダーの様子を見に来るつもりのようだな」

「何かわかりそう?」

「今のところは、デカい蝿としか。おおッ!?」

「どうしたの!?」


 いきなり手を止めたディアナに、すぐさま声をかける。

 まさか、彼女のことがベルゼブブにばれてしまったのか?

 タイミングがタイミングなだけに、すぐさま嫌な予感がする。

 背中がぞわりとした。


「大丈夫だ。少し驚いてしまっただけだ」

「あー、良かった! びっくりさせないでよッ!! それで、何に驚いたの?」

「合体したんだ」

「え?」

「サラマンダーの肉を食べていた蝿が、いきなりベルゼブブに取り込まれたんだ!」

「……それ、共食いじゃないの?」

「いや違う、食べているわけじゃない。姿が重なると同時に、一体化したんだ!」


 思いもよらぬベルゼブブの行動に、とっさに言葉が出ない。

 そうしている間にも、ディアナの実況は続く。


「凄いぞ! 他の蝿たちも、ドンドンとベルゼブブに吸い込まれていく! この群れ、もしかして最初から全部ベルゼブブの分身なのかもしれんぞ……!」

「あ、あれだけの規模の群れが!?」

「信じられんがな! ああ、とうとう一匹だけになったぞッ!! 他は全部、吸い込まれて――」


 狂ったように弾んでいた指の動きが、ここでいきなり停止した。

 そして、先ほどまでとは比べ物にならないほどゆったりとした筆致で――


「見つけたぞ、侵入者どもめ」


 恐ろしい言葉が、書上げられたのだった。


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