第八話 対ゴブリン
私は最強!
スッケルットンーッ!
今日も今日とて、ご機嫌で芋虫を狩りに行く。
あれから毎日が絶好調!
進化こそまだだけど、だいぶ強くなることが出来た。
人間に例えるなら、村のオッサンから初級冒険者ぐらいには強くなったと思う。
この調子で行くなら、あともう少しで一階層では敵なしになるんじゃないかな?
そう思っていつもの狩場に到着すると、先客が居た。
ゴブリンだ。
それも、人間のようにパーティーを組んでいる。
壁際を占拠した奴らは、手にした投げ槍を次々と上に向かって投げている。
どうやら、こいつらの狙いも私と同じ芋虫らしい。
……何でまた、こんなところに。
ゴブリンの生活範囲は大体把握しているが、この場所はそこから外れているはずだった。
奴らは奴らで、集落の近くに専用の狩場をいくつか持っているのだ。
突然モンスターの生息区域が変わったなんてこともないのに、どうしてここまで来ているんだろう。
この壁の芋虫は、ぜーんぶこの私のものだっていうのに!
この際だ、ゴブリンどもと戦ってみようか?
昔の経験からすると、スリングからの投石でゴブリンぐらいは十分に倒せるはずだ。
確認できる敵の数は四体。
私の隠れた岩陰から連中までの距離は、スケルトンの速力で十秒ちょっとといったところ。
対芋虫用にせっせこ貯め込んだ石を投げまくれば、近づいてくるまでに倒せないことはない。
リスクを取って戦うか、このまま逃げるか。
選択肢は二つに一つだが、私はあえてリスクを取ることにした。
勝算もあるし、だいたいたかだかゴブリンである。
連中を相手にいつまでも逃げ回るなんて、私の性には合わない。
ゴブリンぐらい、村ごと潰してドッカンするのが冒険者ってもんよ!
今の私はスケルトンだけどね。
そうと決まれば、一発目。
思いっきり放たれた石は、見事にゴブリンの頭をたたき割った。
緑の頭が、よーく蒸かしたカボチャみたいな状態になる。
さすがは私!
ここ数日の間に鍛え上げられたスリングの腕は、並じゃなかった!
「ギャッ!?」
「ギャギャギャッ!!」
突然のことに大騒ぎをするゴブリンたち。
ギャーギャーと悲鳴がこっちまで聞こえてくるが、かえって好都合だ。
混乱するあまり、事態への対処がまったく遅れてしまっている。
人間っぽく振る舞ってはいても、やっぱりこういうところが馬鹿だねェ。
その隙に二発目、三発目。
放たれた石はそれぞれ見事に命中し、呆気なくゴブリンを戦闘不能にする。
……あれ、こいつらやっぱり弱いの?
初日にスケルトンをガンガンぶっ飛ばしていたので、結構強そうな感じがしてたんだけどね。
やっぱ、ゴブリンはゴブリンだったか。
激戦を覚悟していただけに、何となく期待外れな気分になる。
よし、こうなったらとっとと止めを刺そう。
スリングに石を載せて、紐をぶんぶんと回して加速させる。
その時、不意に頭が割れるような高い音が響いた。
「ビィーッ!!!!」
痛い、うるさいというより痛いッ!
あまりの大音響に、たまらず頭を抱える。
いったい、これから何をしようというのか。
私はしばし手を止めて生き残ったゴブリンを見守るものの、何もしては来ない。
……なんだ、ただの威嚇だったのか?
避難した岩陰からよろよろと這いだすと、再びゴブリンに狙いを定める。
だがその時、後ろから足音が聞こえた。
とっさに振り向けば、そこには――
「ギャアギャアッ!!」
「カッ!」
ゴブリンの団体が、いつの間にやら私のすぐ後ろまで迫っていた。
さっきのひっどい音は、仲間を呼ぶための合図だったのか!
ひいふうみい……たくさん!
すぐには数えきれないゴブリンの数に、私は即座に撤退を決意する。
だが、ゴブリンたちの動きは意外にも早かった。
石を一発はなっただけで、すぐに距離を詰められてしまう。
ちィッ!!
これでも元Dランク冒険者、舐めるんじゃないッ!!
ゴブリンの群れぐらい、切り伏せてやる!
ナイフを構えると、指を曲げてあえて挑発的な態度を取る。
するとたちまち、激高したゴブリンが槍で殴りかかってきた。
――いけるッ!
穂先をナイフで受け流すと、意外と軽かった。
ゴブリンとの筋力差は、かなり縮まってきているようだ。
最初の状態で受けたら骨が砕けていただろうに、成長を重ねた私の腕はしっかりと耐えている。
この分なら――!
「カカッ!!」
そのまま体を傾け、ゴブリンの間合いに割って入る。
一閃。
ナイフが喉笛を割き、温い血が散った。
次は後ろに回り込んだ奴に肘を喰らわせ、下っ腹をグサリ。
たるんだ腹からたちまち血が溢れ、ゴブリンはそのまま膝を屈する。
――いい、この調子!
スケルトンの体力は、魔力を使わない限り無尽蔵である。
それをいいことに、私はトップスピードを維持したまま体を動かし続ける。
このままいけば、全部倒せるかも。
少しずつ勝利が見え始めたところで、ゴブリンたちがあることに気づいてしまう。
「……カッ! スーッ!」
一斉に私から距離を取ると、槍を長く構えるゴブリン軍団。
そう、ナイフを扱うがゆえにリーチが短いという私の弱点に、とうとう気が付いてしまったのだ!
頭が悪い魔物の代表格の癖に、変なところに気づいちゃって!
戦術で言うところの「槍ぶすま」のようなものを形成したゴブリンたちに、たまらず歯ぎしりをする。
こうなっちゃったら、ナイフではどうにも勝ちようがないじゃない!
どうすりゃいいって言うのよ!
ええい、最後の手段ッ!!
背後に聳える壁の上方。
そこにまだ芋虫が残っていることを確認すると、落ちていた槍を思いっきり投げつける。
たちまち落っこちてくる芋虫。
私はその身体をどうにか受け止めると、お尻を手で押さえつけてゴブリンたちの方へと向ける。
「カカカッ!!!!」
「ギャアアァッー!!」
危機を感じた芋虫によって、これでもかと噴出される酸。
身を溶かす雨に絶叫するゴブリンたちの脇を、私は一心不乱に駆け抜けたのだった――。
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