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第八十七話 デッカイあいつを捕まえろ!

「こんなに集めて、一体どうするのだ?」


 ドドーンッと積み上げられた食材の山。

 最近の主食と化しているサラマンダーはもちろんのこと、マグマの海で釣りあげて来た魚までどっさりだ。

 その高さと来たら、大人三人分ぐらいはある。

 ギルドが誇る大食堂の厨房を見たって、こんなふざけた量の食材はないだろう。

 ちっこい村ぐらいなら、これだけで一冬ぐらい越せそうだ。


「あいつをおびき寄せるのよ」

「こんなので来るのか?」

「ええ。この間はでっかいゴリラを倒したところだったし、昨日はタコとカニを倒したところでしょ? あいつが私たちの目の前に現れるのは、いつも私たちが食材をたくさん持っている時なのよ。だから、あいつは食材を狙って動いているんだと思うわ」

「ううむ、単なる偶然の気もするがな……」

「その時は、私とディアナで食べちゃえばいいじゃない!」


 私がそう言うと、ディアナはおいおいと苦笑いをした。

 流石の彼女も、この食材の山にはビビったらしい。

 これだけあったとしても、私とディアナなら一週間ぐらいで食べ切っちゃうと思うんだけどな。

 もしディアナが食べきれないって言うなら、私だけでもなんとかするし。

 たっくさん食べて、まだまだお肉つけないといけないからね!


『でも、あいつをおびき寄せたところでどうするのです? また逃げるだけになると思うのですよー?』

「そうならないためにも、今から作業をするのよ」

『何をするのです?』

「ちょっと工作をするの。これを使ってね」


 軽く頭を掻き上げる。

 真っ白だけど、量はそれなりにある髪がふわっと揺れた。


「髪の毛? そんな白髪を、何に使うんだ?」

「白髪って言わないで、白髪ってッ!! これでも、必死になって取り戻した髪なんだからねッ!!」

「あ、ああ……! すまなかったな」

「ったく。不死族になってもナイスバディなディアナには、そこのところがねえ」


 少し嫌味っぽく言ってやると、ディアナの鎧に目をやる。

 種族的に着脱不可能かと思っていた鎧なのだけど、実は普通に脱げるものだったりする。

 だから前に一度、ディアナが裸になって水浴びをしてるところを見たのだけど……。

 あれは凄かった、女の私が見ても凄いとしか言いようのないものだった。

 女の子の胸なんて、普通は脱がせたら縮むもんである。

 真っ当に申告してる子でもせいぜい三分の二、あらゆる手法を駆使している強者だと五分の一くらいになっちゃったりする。

 

 それが何故か、ディアナの場合は増えるのよね!

 顔より大きいぐらいに見えるそれが、さらに三割増だ。

 なのに、腰はすっきりと細いんだから全くやって居られない。

 何をどうしたら、男の妄想120%みたいな身体になれるんだかッ!

 人間だった頃の私もたいがいだけど、ディアナはさらに上を行き過ぎている!

 まったく、妬ましいったらありゃしないわ!


「シース、何だか目つきが怖いのだが……?」

「……ああ、ごめんごめん! 話を戻すわよ!」

「うむ、それでその髪の毛を使ってどうするのだ? まさか、釣りか?」

「少し違うわ。これでね、網を作るのよ」

「網? 網であの魔物を捕まえようって言うのか!?」


 ディアナは目をぱちくりとさせると、呆れた表情をした。

 まあ無理もない。

 山よりも大きな魔物を、網で捕獲できるなんて普通は考えないからね。


「そうよ、網であいつを捕獲するわ。正確には、その一部ってところかな?」

「肉を裂くのか?」

「ちょっと違うわね。私が思うに、あの魔物はちっちゃい魔物の集合体だと思うの。だから、その一部を捕まえられないかって」

「集合体……! そうだな、そう考えればつじつまが合う! 一瞬で消えたのも、バラバラになっただけということか!」

「そういうこと! 私たちが残していった食材に、ちっちゃい歯型みたいなのが残ってたでしょ。あれで気づいたのよ」


 そう言うと、ウィンクをして見せる私。

 するとディアナの表情が、ほんのわずかにだけど引きつった。

 ……ああ、今の私はミイラみたいな姿をした不死族だったわね。

 ミイラの笑顔を想像して、自分でも何とも言えない気分になる。


「あー、とにかくよ! 髪の毛で網を作って、あいつを捕まえましょ!」

『でもシース、何で髪の毛なのです? 蜘蛛の糸とかもあるのですよ?』

「あの魔物、魔法が使えるみたいだからね。魔法を吸収できる私の髪の毛が、一番向いてるかなって。それに丈夫だし」


 髪の毛を一本引き抜くと、指でつまんで引っ張ってみる。

 見た目はただの白髪だけど、なかなかどうしてちょっとやそっとのことでは切れない。

 下手な針金よりもよっぽど丈夫だ。

 さらに、吸魔鬼である私の髪の毛は魔法の一切を吸収して貯めこんでしまう。

 どれほど強烈な魔法をぶつけようが、ぜーんぶ魔力に還元して吸い込んじゃうのだ。

 魔法が使える相手を捕獲するのに、これ以上の代物はない。


「では……」

「あ、自分で抜くわ。人に抜かれると痛いからね」

「む、そうか。ならば私は編むとしよう」

「編み物なんて出来るの?」


 あまりらしくないなと思って訝しげな顔をすると、ディアナは失敬なとばかりに眉を寄せた。

 彼女は胸をドンッと突き出すと、自慢げに言う。


「これでも編み物は得意なのだ。まかせておけ」

「ちょっと不安だけど……じゃあお願いね!」

「よし、任された!」


 グッと親指を上げるディアナ。

 私もそれに応じて指を上げると、そのまま頭に手をやって髪の毛を抜いていく。

 こんなことしたらみるみる禿げてしまうんじゃないかと思うけれど、そこは不死族のことだ。

 魔力さえあれば髪ぐらいはいくらでも再生できるので、特に問題はない。

 つるんとしたところで魔石を口に含めば、すぐさまモサッと髪が生えてくる。


「これぐらいでいいか?」


 髪を抜き続けること、数時間後。

 作業に没頭していたディアナが手を止め、私に問いかけてくる。

 見れば、彼女の手元には人がくるめるぐらいのサイズの網が出来ていた。

 自信ありげに言っていただけあって、なかなかのクオリティーである。

 普通のお店はちょっと厳しいけど、蚤の市ぐらいには出せそうな仕上がりだ。

 歯型の大きさからすれば、たぶんこれぐらいあれば行けるだろう。


「上出来よ! あとは、魔物が現れるのを待つだけね!」

「ああ! やれやれ、久々に編み物なんてしたものだから変に疲れたな。少し休んでいいか?」

「もちろん。私も、奴が来るまではちょっと休むわ。流石に、ここまで再生を繰り返すと不死族の身体でもちょっとキツイわ。精霊さん、いつもみたいに番をお願い」

『分かったのですよー! 任せるのです!』


 こうして私とディアナは、精霊さんに番を任せると休息についた。

 それからしばらくして――


『シース、ディアナ! 奴が現れたのですよッ!!!!』


 精霊さんの叫びと身体の重さで、目を覚ますのだった――!


果たして、網には一体何が捕まるのか?

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